1章23話 彼女に合う物を

「とりあえず……今日は終わりかな」


 何とか読めた本の数は四冊のみ。

 いくら幸運が高いと言っても本当に必要な知識が書いてある本を見つけるのには骨を折ったよ。部分部分の必要そうな場所だけを読んで、それでも四冊だけしか読み切れなかったわけだしね。適当にタイトルと場所だけ覚えて返しておく。


 大体だけどダンジョンとスキル、ステータスについては知識を得られたかな。加えて街の近くにいるであろうCランクまでの魔物の生態も軽くだけど覚えたよ。必要性が高いものを重視したからBランク以降は見ていない。悪いけど書き写す紙も無いのに全ての情報を覚えきるなんて無理だ。俺はそこまで出来た頭を持っていない。欲しいとは思っているけど、こればっかりはガチャで何とかは出来ないだろうしなぁ。


「おや、もういいのかい」

「はい、これ以上やると頭が痛くなってしまいますよ。覚えていて損のないCランクまでとダンジョンに関しては覚えたので……まぁ、ダンジョン戦で困ることは無いと思います」

「……すごい記憶力だ事」


 ……そんなに凄いことなのか?

 別に読む時間は二時間程度はあったはずだし覚える量も二十ページほど、それに覚えたと言っても大体でしかないからね。勉強とは違って興味のある事だから覚えられてもおかしくはないと思うんだけど。……別にいいか。単純に異世界の人と俺とでは感性が違う可能性もあるしね。気にするだけ意味が無さそうだ。


 軽く会釈をして図書室を後にする。

 まずは何をしようかな。二時間は経っているだろうから伊藤さんの部屋に行くのはありだね。元気そうかだけ確認して少しだけ寝顔を眺めてみるのもいいかもしれない。バレたら怒られるかもしれないけど見合った結果は得られるだろう。……まぁ、でも最優先では無いかな。


 あー、一つだけしたい事を思い出した。

 今日のガチャを回していなかったからね。それだけは早めにしておきたい。昨日のログイン忘れなんて真っ平御免だし。もしかしたら昨日、回すことによって滅茶苦茶に良いアイテムが手に入った可能性だってあった。


 待てよ……なら部屋に行く意味があるね!

 寝顔を少し見て元気かどうかを確認、寝顔を見た後なら今、欲しいものが確定で手に入る気がするし。何なら欲しいものは伊藤さんに経験値をあげられるアイテムだから行った方がいい。別に伊藤さんの寝顔が見たくて行くわけじゃないからね。それに同じパーティメンバーの部屋に行っておかしい事なんて何も無いし。うんうん、俺は何もおかしくなんて無いね!


「音は……しないか」


 扉越しから耳を澄ましてみた。

 だけど、物音の一つもしないということは伊藤さんはまだ寝ているって感じかな。これは副産物である寝顔を見ることが出来るかもしれない。何度も言うが寝顔を見たくて部屋を訪れるわけでは決してないけどな。俺はただ伊藤さんが元気そうかどうかを見に来ただけ。最悪は回復の短剣で癒すことだってするつもりだし。


 申し訳ないと思いながら中へ入る。

 周りに人は……誰もいないよな。別に見られたからといって何かあるわけでもないが変な噂は避けたいからね。俺は良いけど伊藤さんは嫌かもしれないしね。……それなら部屋に行くなよって話なんだけど欲望には勝てません。


「元気……そうだな」


 しっかりと伊藤さんは寝ていた。

 軽く顔を覗き込んでみたけど「うーん」って言うだけで苦しんでいるようには見えない。ってか、今更だけど本当に伊藤さん可愛いな。寝るんだから眼鏡を外すのは当然だろ。そして眼鏡をかけていない……つまりは今の伊藤さんは眼鏡抜きの本来の可愛らしさが顕になっているんだ。この破壊力……俺でなきゃ耐えられなかったな。


 とりあえず元気そうでよかった。

 彼氏なら寝ている伊藤さんの頬とかに触れられるんだろうけど……まぁ、そんな大層な存在ではないしやめておくか。少なくとも今は伊藤さんの寝顔を見れただけで十分だ。というか、十分過ぎてすごく胸がドキドキしている。赤鳥達が虐めていた理由も分かりそうだな。


 いや、どんな理由でも虐めは駄目か。

 それに分かった理由が事実だとすれば本当に赤鳥達は人として終わっているからな。ミカエルからの情報を全て真だとするとアイツらは生きていて良い人間じゃない。……と、一人で義憤に駆られていても意味はないか。俺が伊藤さんを守ればいいだけだもんな。


「そのためのガチャっと」


 ステータス画面からガチャを開く。

 予想していた通りログインが一から振り出しだ。さすがに一日の間ではカムバックキャンペーンとかも受けられないか。いや、そんなことを許していたら別の意味でサービス終了一直線なんだよなぁ。まぁ、スキルとしてのガチャにサ終があるのかは不明だけどね。


 チラッと伊藤さんを見る。

 守りたいこの笑顔……良い夢を見ているからか、ふにゃふにゃしている。守るために必要なのは経験値を戦わずして得られるアイテムだ。一日二回の無料ガチャで出ないのなら石を使っても良いとさえ思っている。限定ガチャの方は常設よりもURが出やすいみたいだしね。


 一度、深呼吸をしてから伊藤さんを見る。

 まずは可能性の低い常設ガチャから。手を伸ばしてボタンをタッチしてみる。前に見た演出が流れて……そして、玉が排出された。色は赤、期待出来るかは開いてからだ。もう一回、タッチして中身を出してみる。出てきたのは……緑色の液体が入った瓶だ。間違いなく経験値魂ではない。


 だが、ここで落胆はしない。

 チャンスはあるからね。仮に当たらなくても石を使えばいいし、それでも出なければ出てきたアイテムで伊藤さんをパワーレベリングするだけ。それだけのことを俺は出来るはずだ。毒を使えば難しくはない。


 もう一度、伊藤さんを見詰める。

 頭の中を伊藤さんだけにして限定ガチャの無料の画面をタッチした。演出……別に金が出て欲しいわけではない。赤でもいいから経験値魂が欲しいだけなんだ。演出は飛ばす、こんなのを見ていても時間の無駄だからね。……止まった、ここで止まる意味は……確定演出だ。


「……指輪……?」


 赤い石がハマった指輪。

 ルビー……なんだろうか。出していないのにキラキラと太陽のように輝いていて神秘的なパワーを感じる。能力はどうであれ、これは伊藤さんにピッタリかもしれないな。あ、でも待てよ……よくよく見てみればコレって限定ガチャのピックアップの一つだ。常設ガチャだと出ない珍しいアイテム……能力は書かれていないか。


 とりあえず能力を見てみよう。

 回すかは指輪が使えるかどうか次第かな。何とも言えないんだけど俺の勘が回さなくていいとも言っているから……このアイテムはきっと俺の求めていたものなんだろう。だから、まずは確認からしておかないと。えっと……。


「寄生の……指輪……」


 想像以上に価値のあるアイテムだった。

 一言で言うと能力に無駄がない。もちろん、メインである寄生は今の伊藤さんに必要な、最善の一手を打たせてくれる能力だ。対象一人を指定してその人が得る経験値、ここでいう経験値はスキルの熟練度も含まれるらしい、と同等の経験値が手に入ると書いてある。試しに俺に寄生させてみれば効力の高さも分かるだろう。


 そして、問題は付属の能力だ。

 サブ能力のはずなのに物理、魔法両方の防御力を格段に高め、そして加えるかのように炎に関するダメージを上昇させるとも書いてあった。炎限定なのは指輪に付いている宝石がルビーだかららしい。この世界では宝石ごとに属性が付いているみたいだね。詳しくは書いていないから後でフィラさんに聞いてみても良さそうだ。


「本当に幸運が高いってチートなんだな」


 しみじみと今更になって思う。

 グランとの戦いだって幸運が高かったから転んでも良い結果になったんだろうしね。もしも幸運が低かったら転んだ時点でゲームオーバーだった。元より死神のローブや毒と回復の短剣なんて大層なものも手に入らなかっただろう。


 ただ問題はこれをどうやって渡すかだ

 伊藤さんの顔を見詰める。どうするのが一番に楽なんだろうね……まぁ、時間もあるし少しだけ考えてみようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る