1章16話 初めての殺し
「かなり暗いですね」
「まぁ、洞窟の中だし仕方ないよ」
そんなことを言う割には怖がっていないな。
別にいいんだけどさ、こういう時ってお化け屋敷によくある展開を求めてしまうよ。そういうことをする余裕も無いからなんだろうけど。ああいう時の女子って大概は心から怖がっていないし。
「このダンジョンは未攻略だから未回収の宝も多くあるんだ。だから、王国でも限られた人のみが入ることを許されている。普段なら勝手に入られないように入口に兵士が駐在しているしな」
「なるほど、だから整備もされていないと」
「おう、物分りがいいな」
それくらいなら誰でも分かると思うけど。
街とかが繁栄していれば街灯だって比例しておかれていくだろ。このダンジョンだって人が多く行き交うなら暗闇は少ない方が良いってなるはずだ。この理論だとダンジョン内に吊るされているランタンが数えられる量しかないのは行き交う人が少ないからってなるよね。
それにしてもこんな形で教えて貰えるとは。
話しぶりからして未攻略のダンジョンには宝があるんだな。記憶にあるライトノベルとかだと攻略しているか関係なく稼げる場所って扱いなんだけど。全部が全部、俺の知っているライトノベルとかの知識通りではないらしい。まぁ、ゲームの世界に入り込むみたいな話でもないから仕方ないんだけどさ。
「おっと、もう少し説明しようと思ったがお出ましのようだ」
「ギャギャギャ」
邪魔者が現れたみたいだ。
初見じゃないというのに見ていて吐き気のする姿だこと。これが最初の難関なんだろうな。後ろの伊藤さんも女の子らしく震えているし。やっぱりこういう姿を見ると可愛らしく思えてくるよね。まぁ、元から伊藤さんは可愛いんだけど。
「思いっきりやってみろ」
「了解」
このまま伊藤さんに震えられても困る。
だから、早めにご退場願おうか。恐らくだけど死にかけない限りはグランの手助けはない。周りに人もいないし本気でやって大丈夫だろう。死神のローブを取り出して羽織る。そのまま短剣を目の前のゴブリン三体に構え直した。
「ギャッ!」
ゴブリンが走り出してきた。
あの目は……俺ではなく伊藤さんを標的にしているな。胸の大きな女性を見る時の男の目だ。性欲に満ちた女性を自分のものにしようとする目。相手がゴブリンであるところが余計にタチが悪い。相手が新島達だったとしたら違う意味で地獄だっただろうが。
まずは毒の短剣を投げつける。
ビンゴ、狙い通り頭に突き刺さってくれた。死んだかどうかの確認は簡単だな。白い煙となって消えていくかどうかだ。今、それが起こったから分かったんだけど。……とりあえず近距離にならずとも倒すことは簡単そうだ。
ただ頭にナイフを差し込むだけ。
確実性は兎も角として出来なくはない。回復の短剣を投げつけてもう一体も倒しておく。手元に武器が無くなったのが見えたからか、残り一体も近付いて来てくれた。魔物というのは頭が悪いようだ。そんなのただのカモじゃないか。
「ギィ!?」
刻印で戻した毒の短剣を刺す。
首元に刺したのは悪かったかもしれない。煙に変わるとは言っても消えるまでの間は生物らしく血を流してしまうからね。せっかくのローブに血がかかってしまうよ。……とはいえ、見た感じは吹き出した血で汚れた様子はないけど。ズボンに関してはお察しかな。新しいのを貰ったりして何とかしないと。
「これでいいですか」
「……知ってはいたがさすがだな」
そこまで感心するほどのことか。
いやいや、よくよく考えてみれば一発も外さずに投げつけたり常人離れはしていたかな。狙って首元に差し込むのも動いた魔物相手だと難しそうだしね。確かに終わって考えてみれば俺って戦闘の才能があるのかもしれない。ぶっちゃけ、欲しいとは思わないけどさ。そのうち魔物を捕まえて悠々自適に暮らすんだ。
とはいえ……意外とすんなりいったな。
もっと生物を殺すことに躊躇いがあったりとか、戦いを恐れたりするかと思っていたんだけど。心臓が早くなるとかもないし、ゴブリンに対して恐怖すら感じなかった。初めての殺しだったんだけど、伊藤さんに話しかける時の方が緊張していたかもしれない。
「ダンジョンだと魔物を倒したら素材が落ちるからな。忘れずに回収するように。ちなみにダンジョン外だと死んだ姿のままだから自分で素材を剥ぎ取る必要性がある。それも、そのうち教えてやるから安心しておけ」
「分かりました」
「……頑張ります」
健気に握り拳を作っている。
別に俺が覚えるから気にすることないんだけどな。最悪は幸運が高いからガチャで関連したスキル玉を手に入れられる可能性もあるし。伊藤さんには笑っていて欲しいからね。好き嫌い関係なく虐められた分だけ幸せになって欲しい。
「構えなくていいよ。出来ない事は俺がやるからさ」
「えっと……それは……」
例えば虫を触れない子に虫を渡すか。
そんなことするのは酷だよね。なら、出来る人がやった方が楽でいい。実際、ゴブリンに対する伊藤さんの反応は虫のそれに近い。心の底から近付きたくないってヒシヒシと伝わるんだ。俺が覚えた方が良いに決まっている。
「すいません、お断りしておきます。出来ないと生きていけないんですよね。それなら私もやらないといけませんよ。全部、甘えるわけにはいきませんから」
「でも、パーティを組むって甘えるってことだと思うよ。一人じゃ出来ないことをするためにパーティを組むんだ。伊藤さんが出来ないことは俺がするから出来ないと駄目だって考えるのはやめて欲しい」
「それだと私が駄目になってしまいますよ」
伊藤さんが駄目になってしまうか。
うーん、分かるんだけど……出来ない人にやらせたくないんだよなぁ。伊藤さんには強くなってもらうつもりではいる。それは直結して伊藤さんの生死に関わるからね。だけど、解体の一つ出来ないだけで生死に関係してはこないだろ。魔法が使えるだけで必要とする人は多くいるし。
「駄目な伊藤さんも良いと思うよ」
「そういうことじゃないですよ……」
あらら、苦笑いされてしまった。
だってさ、きっと俺が何を言おうと平行線を辿るだけだからね。もちろん、伊藤さんには伊藤さんなりの考えがあるのは分かる。けど、俺には俺なりの気持ちがあるんだ。うーん、別に伊藤さんが無理する必要性がないと思うんだよなぁ。見るのさえ辛そうなのに解体なんて……多分、無理だろ。
「はぁ、イチャつくのは帰ってからにしてくれ」
「ここだからしているんですよ。帰ったらどこで聞かれているか分かったものじゃないですし」
「……あいあい、まぁ、程々にな。俺の心に来るものがある」
俺達の担当になったことを恨んでくれ。
少なくとも俺達のパーティを選んだのはグラン自身だ。イチャつこうがなんだろうが俺の知ったこっちゃないね。……新島がイチャついていたら俺もここまでイラつきそうではあるけど。
煙が消えた後の地面を見る。
これ以上、伊藤さんと話をしていたら本気でグランが怒りそうだからね。まだ確認していないゴブリンを倒したドロップ品を回収しておきたかったし。えっと……あった、これか。
「お、ナイフじゃねぇか。落ちる確率がかなり低い道具だぞ、それ」
うん、それは知っている。
使えるかどうかは置いておいて落ちているアイテムの中で異様なのがそれだし。他は右耳とか肉とかだからね。後……ああ、これも見方によっては異様かな。光り輝いている石が一個だけあった。そう、あったんだ。これだけ触れたら目の前から消えてしまったんだよ。
まぁ、何かは分かるんだけどね。
ドロップ品に関しては持っていくための道具も無いからアイテムに入れるからさ。そこを確認した時に見つけたんだ。アレはガチャ石らしい。偶数のキリがいいガチャ石の数字の一桁のところが一とついていたからね。多分、今、拾ったのがそれだ。
それが……三つセットで落ちている。
肉、右耳、ナイフ、石がセットで一つずつ。こう考えてみると石を稼ぐのは簡単そうだ。ゴブリン千体で十一連なわけだしね。俺の知っていたソーシャルゲームとかだとこうも簡単にはいかない。更新されないストーリーを進めたり、常設されている依頼をクリアしたり……地獄のような毎日を過ごしてようやく十一連が出来るかどうかだ。もしかしたら、これも幸運のおかげなのかもね。
「……ここまで来ると怖いぞ」
「まぁ、運だけが取り柄なんで」
「……そういうことにしておこう」
落ちたナイフを手に取る。
三つ全てに刻印を打っておいて使えるようにしておく。まぁ、要らないだろうけど使える物は多い方がいい。……っていうか、今更だけどデイリーガチャを回してなかったな。帰ったら回しておかないと。楽しみはまだまだあるな。……昨日のデイリーガチャを回せなかったのを思い出してしまった。ここまで来ると思い出さない方が良かったな。来て早々にログインボーナスも途切れてしまったわけだし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます