イヤホン片手に異世界転移。〜固有スキルが【ガチャ】なので巻き込まれた代償に幸運を上げてもらいました〜

張田ハリル@ただのアル中

序章

序章 イヤホン片手に異世界転移

「本当に申し訳ありません!」

「……へ?」


 真っ白いモヤがかかった空間。

 何処と無く現実味のない世界のようにも思える場所に一人の女性が土下座していた。顔が見えないけど体格からして男ってことはなさそうだ。他に特徴をあげるのであれば……空間と同じくらいに真っ白くて少し透明な服を着ていることかな。女神と言われてもおかしくは無いほどに清楚な雰囲気が漂っている。


「えっと……」

「すいませんすいません! 手違いで関係の無い貴方まで違う世界へと飛ばしかけていたなんて! 許してくれとは言いません! ですが! どうか寛大な心でお許しを!」


 いや、許してもらおうとしているじゃん。

 って、ツッコミかけたけどさすがに喉元までで飲み込んだ。このまま聞いていても埒があかなさそうなんだよなぁ。……憶測を立てるとすれば何だろう、異世界転生とか? まぁ、手違いで関係の無い貴方まで違う世界へとって言っているし当たりっぽそうだけど……。


「あの」

「分かっています! 怒っていますよね!? ですが! もう日本には戻せないんです!」

「は? 日本に戻せない?」


 余計にプルプルしだしたな。

 ってか、日本に戻せないって言ったってことは一割違う可能性があった異世界転生が正解により近づいてしまった。異世界、か……となると目の前の女性が女神とかだとしても何らおかしくは無いんだよなぁ。こんなに威厳のない人が神様って思いたくないよ。


「詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

「……あの……その……」


 ああ……イライラするな、コイツ。

 女神だとしても、神様だとしても本当にぶん殴りたくなってくる。ただ、それをしてしまえば過失が相手側にあるのに、コッチまで損害を被りかねない。我慢しろ、我慢我慢……そうだ、こういう時こそ日本にいた時の楽しい思い出を……。


「……?」

「すいません! 転移の衝撃で記憶が無くなってしまっているんです!」


 マジか……記憶喪失に陥っているのか。

 単純に日本にいた時の良い思い出がないから思い出せないかも、とか楽観した考えをしていたんだけどな。でも、これで目の前の神様の過失が大きくなったから悪くは無いか。有っても無くても日本に戻れないのなら必要は無いだろうし。


 って、ちょっと待てよ……?

 俺は一言も記憶に関する話をしていないよね。脳内で楽しい思い出が浮かばないことは考えたけれど口にはしていないはず。口にしていたとすれば俺はどれだけ正直な男なんだ。とすると、当てはまりそうなのは……。


「もしかして思考とかを読んでいます?」

「えっと……女神なので?」


 ぶさけんな! 小首傾げても可愛くないんだよ!

 すげぇムカつくんだが? 見せてきた顔は確かに整ってはいるけど! こちとら女神を名乗る頭のおかしい女のせいで恨みばっかり募っているって言うのによ! 憎い女を可愛いなんて思うわけがねぇだろ! せめて申し訳なさそうにしろや!


「本当にすいませんでした!」

「チッ」

「え!? 舌打ち!?」

「チッ」

「二度目!?」


 本気で殴り飛ばしてやろうか……?

 いやいや、冷静になれ。これ以上、女神を名乗る頭のおかしい女と同格になってはいけない。今は怒ることよりも先に考えておかなければいけないことがある。例えば日本以外で幸せに暮らせる場所へと行かせてもらってとかーー。


「それは無理です。貴方を飛ばせるのは元から日本から勇者を連れてこようとした王国だけです。他からは日本の人材を欲している場所はありません」

「使えな」

「……すいません、よく言われます……」


 本当に使えない奴だな。

 ただまぁ……怒りをぶつけたおかげで許せはしないけど苛立ちは和らいだ。日本には戻れない、転生……いや、転移って言った方が正しいのかな。それで行ける場所も王国しかない。なら……他に頼めそうなことは一つだけだよな。


「もちろん、巻き込んでしまった貴方には何かしらで賄わせて頂きます。本当は勇者達に配るはずだった力の五分の一を差し上げます」


 それは……すごいのか?

 俺の知る限りの勇者って良いイメージがないんだが。それも何処ぞの小説投稿サイトで出されるライトノベルのせいだろうけどな。とはいえ、女神を名乗る頭のおかしい女の言う通りならば勇者達に配る力の五分の一は普通よりは強いってことだろう。そうでなければ許してもらうための対価としては意味が無いし。


「四十人余りの大掛かりな転移ですから。そのうちの五分の一は勇者よりも多少、弱い位の力はありますよ」

「なるほど……で、それだけ?」


 コイツ……嬉しそうに首を縦に振りやがった。

 まさかコレで許すなんて思っているのか。巻き込んだことに対する申し訳なさとかはないんだろうな。だが……それだけの力を貰えるのであれば飛ばすこと自体は許していい。


「本当ですか!?」

「巻き込んだことは許さないけどね」

「構いません! 一つ許してもらえたということは大きな一歩ですから!」


 そんなに大層なことか?

 俺に許して貰えなければ何かあるのか……って、あからさまに身体を震わせたな。ということは何か裏があるってことか。アタフタしているし本気で気が付かれたくなかったんだろう。これは良い交渉材料を見つけたかもしれない。


「隠していることがあるよね」

「い、いえ!」

「なら、前言撤回、許さないわ」

「はう!?」


 騙して終わりならば許すわけが無い。

 元々、貰えるものはトコトン頂きたいしな。異世界ともなれば日本と同じように平和な世界とは違うんだろう。なら、自衛出来る力以外にも何か欲しい。今、俺の手元にあるのは……小銭が入った財布と電池切れの携帯、そして真っ白い携帯に付属されていたイヤホンだけだ。逆に聞こう、これでどうしろと?


「がめついですね!」

「嘘吐きに言われたくないな」

「う、それを言われると……って! 嘘なんて吐いていません!」


 いや、もう自白しているだろ。

 これでも関係ないって言うのであれば……。


「わ、私に何をしようと!?」

「別に何もしない。どうせ、飛ばされても死ぬだけだろうから今いる場所に留まろうと思っているだけだ」

「待って! ウェイト!」

「俺は犬か」


 交渉は両者が合意してこそ、だ。

 なのに、今回に関しては明らかに相手側に過失があるのに十分な案を出してこない。加えて人のことを小馬鹿にしたような態度、ならば言うことを聞く理由はないだろう。このまま飛ばすのなら飛ばせばいいだけだしな。その時は手の届くところにいる女神ごとーー。


「分かりました! 他にも何かあげますから! 下界に私を引きづり込もうとしないでください!」

「分かれば宜しい」


 おし、これでようやく対等だな。

 ここまで来るのも大変だった。悪質な煽り運転者を相手するような不快感を覚えるよ。まぁ、それだけの対価は間違いなく頂く。さすがに誰にも負けない力をとかは出過ぎた願いだしな。簡単に貰えそうな、もとい、やって貰えそうなことを幾つか対価にしようか。


「それで……何が欲しいんですか」

「話が早くて助かるよ。俺が欲しいのは三つあるな。一つ目に転移する場所や俺に関する情報だ」


 これは欠かせない。

 情報無くして知らない場所に行けるわけがないからな。日本ならいざ知らずアフリカの、ヨハネスブルグとかなら力があっても足りない可能性がある。体感で日本での常識や知識はあるから死ぬほど困ることはないと思うけど、記憶が無いことで何かしらの悪影響がある可能性はゼロじゃないからね。


「王国に限らず異世界に関する情報は転移した時に渡しておきますよ。転移する場所は何と言ってもステータス世界ですからね。ステータスと言いさえすれば私があげた情報も簡単に見られると思います。貴方のことは……申し訳ありませんが億を超える人間の個体の情報までは私でも管理していません」

「ステータス世界、か。良い情報をありがとう」

「え……感謝、出来るんですね……」


 感謝くらいは出来るわ。

 というか、なんで目の前の女神を名乗る頭のおかしい女は頬に手を当てて喜んでいるんだ。別段、俺がイケメンなわけでも無いだろ。何か喜べる要素が今の一言にあったのか。……いや、絶対に闇だから聞きたくはないんだけど。俺の情報が貰えないところは使えないが、それを補ってくれる分の情報は貰えそうだな。王国以外の情報もくれるって言っているし。


 とりあえず目の前の女は後だ。

 先に知れたことから処理していこう。まずはステータスと言いさえすれば、だったな。深呼吸をして精神を統一して……冷静な状態でそのステータスとやらを拝ませてもらおう。もう一回だけ深呼吸をして……。


「ステータス」


 ああ、これがステータスか。

 一番最初に出てきたのは六つの四角だ。一つ一つに何かしらの言葉が書かれていてタッチすれば詳しく見れるって感じかな。右端から順を追って見てみるか。まずは一つ目の個体値から。




 ____________________

 名前 (セットしてください)

 職業 無職

 年齢 17歳

 レベル 1

 HP 20/20

 MP 10/10

 物攻 G

 物防 G

 魔攻 G

 魔防 G

 速度 G

 幸運 G

 固有スキル

 ガチャ

 スキル

 魔法

 加護

 ミカエルの加護

 ____________________




 よくある感じのステータスだな。

 数値に関してはよく分からないけど高くないことだけは分かる。それ以外でおかしな点は特に……いや、二箇所だけあるか。固有スキルの【ガチャ】と加護の【ミカエル】っていう部分だ。前者はまぁ、知識があるから悪いとは言わないけど。ただ後者がよく分からない。ミカエルって誰だ?


「ミーです!」

「……そういう冗談はいらない」

「いえいえ! 事実なんです!」


 嘘吐きの言葉を簡単に信用出来ないんだよな。

 それにミカエルは大天使に位置していたはず。少なくとも女神ではなかったから、目の前の女神を名乗る頭のおかしい女が嘘を吐いているようにしか見えない。後、ミカエルというキリスト教の特別な大天使がこんな奴だとも思いたくないな。


「酷くありませんか!? それに大天使だって勝手な位置付をしたのは人間ではありませんか!」

「駄女神?」

「駄は余計です!」


 いや、自分で駄女神って言わなかったか?

 まぁ、いいや。どちらにせよ、目の前の女神を名乗る頭のおかしい女がミカエルという人なのは分かった。恐らくはミカエルという同じ名前の可哀想な頭を持つ子なんだろう。そう思うしかないよな。


「それでいいですよ。加護に関しては巻き込んだことのお詫びです。一日に一回だけ死んだとしても体力を全回復させて復活出来るんです。後はレベルが少し上がりやすくなります」

「聞く分にはすごく強いな」

「女神ミカエルの加護ですから!」


 はいはい、すごいすごい。

 ペチペチと拍手だけしておく。貰えるものにしてはかなり良質な物だしな。固有スキルも使ってから考えればいいし他の五つを見よう。まぁ、そうは言ってもガチャ、アイテム、マップ、情報、通知だから開く必要も無さそうだけど。これの情報にミカエルが異世界の情報を送ってくれるんだろう。なら。


「二つ目だ。これはガチャとかいう固有スキルを見てから余計に欲しくなった。これさえしてくれればステータスとかは特に弄ら無くてもいいな」

「出来ることであれば」

「幸運をカンストさせて欲しい。出来なければ上げられるだけやって欲しい」

「オーケーです。カンストくらいなら楽勝なので任せてください。渡す力の全てを幸運に割り振るだけなので簡単ですし」


 それが出来るのなら簡単には死なないだろう。

 幸運がどう言ったものなのかは知らないけどステータスに書かれるくらいだ。上げておいて損は無いものだろうしガチャとのシナジーが確実に高いと思う。幾ら力が強くても運が無ければ圧倒的な格上に屠られて終わりだろうしな。


「その認識で間違いは無いです。幸運はレベルアップで上昇はしませんし、高ければ高いほどに運命さえも捻じ曲げる程の事象を引き起こします。悪くない選択だと思いますよ」

「なら、尚更だな」


 ここまで貰えれば後は一つだけ。

 ガチャ関係無しで幸運を上げたいと思った最初の理由でもある。それはもちろん異世界ならばのお願いだ。ドキドキする心臓を深呼吸で抑え込む。静かになり始めた中で「最後のお願いだ」と重々しく言って見せて続ける。


「動物を使役出来るようにして欲しい」


 キョトンとされてしまったな。

 でも、これはかなり重要なんだ。俺自体が戦いたいという意欲はないからな。必要になれば戦いはするだろうけど最低限にしたい。だったら仲間が欲しいし、何より獣をモフモフしたい。出来ればネコ科がいいな。


「それは魔物使い系統の職業適性が欲しいということですか?」

「ああ、弱くても構わないから俺は欲しいんだ。魔物使いは職業の中でも弱いことが多いからな。それを心配しているんだろうが気にしなくていい」

「そこまで言うのなら、お任せを!」


 ドンと少し膨らんだ胸を叩いている。

 鈍い音がしたんだ、予想通り強く叩きすぎたようで咳き込んでいた。今更ながら頼んだことをしっかりしてくれるのか不安になってきたな。まぁ、信じるしかないけどね。


「準備が整いました。あの……」

「何かあるの?」

「死なないでくださいね」


 最後の最後で良い笑顔を見せてくれた。

 この顔は可愛いな。最初から土下座じゃなく、こんな笑顔で迎えて欲しかったよ。声が出ないから笑顔を返しておく。そのまますぐに目の前が真っ暗になった。

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