第35話 夏の夜の夢②
そいつの名前は小林 美雪。
もうすぐ死ぬのだと言われてみれば、透き通る様な白い肌の少女は今にも崩れ落ちてしまいそうな儚げな雰囲気をまとっている。
「初対面の人間に、そんな笑えない冗談を言うのはどうかと思うよ」
「初対面じゃないし、冗談じゃないよ?マジ、大マジ、私マジで死ぬの」
どうやら距離感のバグっているらしい少女が顔をあり得ないくらい近づけてくるものだから、俺の顔は美雪の唾であっという間にびしょ濡れになってしまった。
こいつがブスだったら、顔の原型が分からなくなるくらいボコボコに殴りつける所だったが、面倒な事に俺に唾を吐きかける少女は俺の人生で出会った可愛い子ランキングの圧倒的1位に躍り出る逸材、要するにめっちゃ可愛い女の子だった。
「初対面じゃないって、俺は君に会った記憶なんてないけど」
「えぇ~?ひどぉ~い!こんな可愛い女の子の顔を忘れるなんて信じらんないんですけど‼」
「悪い、本当に思い出せないんだけど、どこで会ったんだったっけ?」
「いやっ、毎日会ってんじゃん‼」
毎日会ってる?大学で同じ授業を受講してる奴か?
それにしてもおかしいな、こんなに可愛い子なら俺の目は本能的に奪われるはずなんだけれど。
「きみもK大学の学生なの?」
「ううん、違うよ。でも、毎日K大学には通ってるよ」
なんだコイツ、何言ってんだ?
大学生じゃないのに、毎日大学に通ってる?
とんちか何かの類か?
教授にしちゃ若すぎるし…、まさか美魔女か?
「大学生じゃないのに、毎日大学に通ってるって、どういう事だよ」
「通ってるっていうか、正確には電車に乗って大学の門の前まで行ってるっていうか」
美雪は、急に顔を赤らめて股間を弄りながらモジモジし始める。
「女の子の口からこんな事聞き出そうなんて、君って意外とデリカシーないんだね?」
本当にコイツは何を言っているんだ?
確かに俺はデリカシーは無いけれど、初対面の奴に面と向かってそう言われると腹が立つ。
コイツがブスだったら、顔面の原型どころか、存在ごと消し去ってるところなのに、残念ながらこの意味不明な少女はとんでもない美人なのだ。
「どういう事だよ?さっきから本当に訳が分からないんだけど」
「だから、私、君の事ストーカーしてんの」
「………、はっ?」
「ストーカー分かんない?S・T・A・L・K・E・R、ストーカー。私、2年前から毎日欠かさず君が家から大学に通うまでストーカーしてんの。もちろん帰り道も。君の家もバイト先もしってるんだよ?」
美雪が俺の表情をうかがってくる。
なんだコイツ…、。
「キッショ」
激しい痛みと共に、俺の視界が輝きだす。
どうやら美雪に目をぶん殴られた様だ。
なんだコイツ…、面白いじゃん。
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