第19話 200mリレー決着
K少年刑務所、第1工場と第4工場の200m×5リレー対決もいよいよクライマックス。
第1工場のバトンは、このK少年刑務所の英雄であり、今回のリレーのアンカーである所の立花さんへと渡っている。
第1工場の他のリレーメンバー達も、第4工場のリレーメンバーを圧倒して、全く寄せ付けていなかったけれども、立花さんは更に一つ、いや二つ次元が違う。
乗用車とスポーツカーが競争をしたら勝負にならないのと同じ様に、もともと搭載されているエンジンが違うのだ。
努力では越えられない壁。
神様からのギフト。
立花さんは、明らかに常人では持ち合わせていない類の特別を持っている人間なのである。
立花さんはどんどん加速し、あっという間に第4工場の第4走者に追いついたかと思うと、瞬く間に置き去りにしてしまった。
周回遅れにされて、意気消沈する第4工場の囚人達を気にする気配など毛ほども無く、敵はあくまでも自分自身であるとでも言わんばかりに、立花さんはグラウンドを躍動する。
私が想像していた刑務所とはまるで違う。
人を傷つけ、自らの欲望を満たし、挙句の果てには社会から抹殺された、そんなどうしようもない人間達の苦悩と溜息に塗れた牢獄。
ここに収監される前、
だが、どうだろう。
今、私の目の前に広がっている、この光景はどうだろう。
坊主頭の若者達が、今という瞬間に全力を捧げて、まるで今日が人生最後の日だとでも言わんばかりに、命の全部を燃やしている。
娑婆で、ここまで本気で生きている人間が、果たしてどれ程いるであろうか。
私の知っている限りでは、ほとんどの人間は、自分の生活を守る為、豊かな暮らしを手に入れる為、家族を守る為等という全く下らないとしか言いようの無いものの為に、今を捨て、自分までも捨てて、ストレスに塗れた苦悩だらけの現代社会を生きている。
彼・彼女達は、生きる為に生きるという、訳の分からない人生を選択し、1秒たりとも今を生きる事なく、1秒たりとも自分という存在を生きる事無く、その虚しく無意味で無価値な一生を終えていくのである。
命を馬鹿にしているとしか思えない。
それでいいのであろうか?
本当に、人間がそんな生き方を選択していいと言うのであろうか?
他人の人生に口出しする権利等、誰も持ってはいないだろう。
でも、自分の人生に口出しする権利ならば、誰もが有している筈ではないか。
ならば、私は私の人生に口を出す。
そんな生き方で言い訳ないだろうが。
命を馬鹿にするなよ。
ふざけるな、歯を食いしばれ、血反吐を吐きながら、醜く足掻きながら、今という瞬間を全力で生きろよ。
それが、人間で在るという事だろうが。
第1工場のアンカーである立花さんがゴールして、200m×5リレー対決は第1工場の圧勝となった。
柔らかな風に包まれる私の身体の中にある小さな心臓は、今にも爆発してしまうのではないかと案じてしまう程に高鳴っている。
まもなく、第1工場対第4工場の400m×5リレーの幕が切って落とされる。
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