第02話
午前中に村長からお願いされた仕事を済ませ、午後からは村の方へ戻り朝に頼まれた仕事を終え陽が落ちるギリギリ前に村長の家に戻ってきた。
「紫苑ちゃん、今日はありがとう。これで今月も妖の影響を受けずに済むよ」
礼を言ったのは紫苑が住む村の村長の妻お時だ。
お時は紫苑が独りになってから何かと気にかけてくれ一人娘のあやめと同じように面倒を見てくれる。
「しばらくは今日お渡しした札の力で守られますが、またひと月ほどしたら新しい札に変える必要がありますので……」
「では、また一月後にお願いしようかね。これはほんの気持ちだから受け取ってね」
そう言ってお時から渡された包みには礼金としては少し多い額の金子が入っていた。
「これはいただきすぎです!」
「いえいえ、いつもお世話になっているお礼も含めてほんの気持ちだから、ね……」
そう言ってお時は紫苑の手を握り包みをそっとおしかえした。
紫苑が村長の家を後にすると紫苑を見送っていたお時は一人呟く。
「紫苑ちゃんなんでも一人で抱え込んでしまうから……無理をしていないといいけど」
◇◇◇
「すっかり遅くなっちゃったな……日が暮れる前には大鳥居を抜けておきたいんだけど」
紫苑はお時の元を後にして自宅がある村はずれまで急ぐ。
今日の依頼は急な依頼も入ったため思ったより時間がかかってしまった。
いつもなら大通りをまわってなるべく神社の大鳥居に近づかない道をつかい帰宅するが、大通りをまわると帰宅まで時間がかかる。
「しょうがない、今日は神社を抜けて帰ろう」
紫苑の住む村には古くからある大きな神社があり鬼神様を祀っているといわれている。
この一帯は昔疫病が蔓延しており、作物も育たず人が住める土地ではなかったが、ある日ふらりと現れた美しい巫女様を鬼神様の元にお使いとして献上したことで村周囲のよどみがなくなり実り豊かな土地へと変わったと伝えられている。
その後、巫女様がお仕えする鬼神様を祀るための神社が建立され、その建立されたのが百鬼神社だ。
しかし、多くの幸を受け取る代わりに村にはいくつか掟があった。
一つ、日が暮れてから百鬼神社の大鳥居をくぐった女子は鬼神様への贄として献上される
二つ、大鏡の儀を毎年欠かさず行う
三つ、年の始めの収穫物は鬼神様に捧げる
四つ、鬼の嫁取り行列の日は玄関先に酒と桜の木を供える
村ができてから数百年は経っているので昔よりも信仰心は薄れているものも、掟の一つである大鳥居に関しては未だに絶対といっていいほど村人たちの間では守られており夕暮れ時以降は誰も神社の周囲には近寄らない。
紫苑が林を分け入ってけもの道を進んでいると前方から男のものと思われる声が二つ聞こえる
(こんな時間に神社の森に人がいるなんて……)
村人はこの時間に森に入るなんて絶対にありえない。
とすると外部の人の可能性が高いが、夜鳴村は四方を山に囲まれているため近くの村ともかなりの距離があり村に来訪者ある時は何かしら話題になることが多い。そう考えると、
「妖か……」
息を殺し木の影に身を低くし隠れ、念のために守りの護符を発動させる。
耳を澄ませると何やら人を探しているような話をしている
「おめぇがぐだぐだ文句いっから女子が逃げちまったんだよ」
「おれのせいだって言うのかよぉ」
「こんなあぶねぇところまできて手ぶらで帰れねぇぞ!」
「悪かったよぉ……人間の女だ、まだそう遠くに逃げてはねえだろうよう……」
前方で何やら話しているのは大柄な男と小柄な男の二人だ。
ここからでは何の妖かまでは分からないがどうやら人間の女性を探しているらしい。
(人間の女って……誰だろうこんな時間に神社周囲に村人がいるとは思えないけど)
紫苑は前方の二人の気配に気をつけつつゆっくりと周囲を見渡すと、
前方にいる男達のすぐばに生える木の上にまだ若い女が身を震わせて隠れているのが見えた。
(!このままだと彼女が見つかってしまう。しょうがない……)
紫苑は腰に下げた巾着から人形をした紙を一枚取り出し何やら呪言を唱える。
そうすると掌で横たわっていた人形は息吹が吹き込まれたようにひらりと手の上から舞い落ち森の奥深くめがけ吹き抜けていった。
「おい!あっちから音がしたぞ!追いかけるぞ」
「籠女箱はどうする?」
「そのまま背負ってこい捕まえたらすぐ向こうに戻るぞ!ここに長居していると鬼の一族に見つかったら厄介なことになる」
前方にいた男たちは人形の後を追って森の奥へと消えていった。
「あの……大丈夫ですか?」
紫苑は声が大きくなりすぎないように気を付けつつ木の上にいる女性に声をかける。
「あなたは誰ですか?」警戒心を含んだ固い声で問われる
「私は夜鳴村で術者をしています紫苑と申します」
「え、紫苑?」
木の上から顔を出したのは村長の一人娘のあやめだった。
「あやめ!こんなところで何を?とりあえず早くここを離れたほうがいいから」
紫苑はあやめが木の上から降りるのを手伝い、二人は急いでその場を後にした。
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