第43話 お仕置きの始まり
「無限に在る者」・・・・・・ 初めて聞いた。
アル兄様もオルト兄ぃも、神や悪魔に近い存在ということなの?
いろんなことが起こり過ぎている。私の心がついていっていない。スーおばさんのことが頭から離れないでグルグルとしている。
気持ちを落ち着けようと、冷めてしまったポロ茶を一口飲んだ。ゆっくりと考える時間が欲しい。
気づいたらスーおばさんのベッドにいた。もうお昼に近い時刻みたいだ。
あのまま寝てしまったのをオルト兄ぃが運んでくれたんだろうな・・・・・・
簡単に身繕いをして2階にあるリビングに下りていく。
「マルルカ、少しは眠れた?」
「うん。オルト兄ぃ、ありがとう。ベッドに運んでくれたんだね。メイちゃんは?」
「メイちゃんは、今日、1日中眠ってもらうことにするよ」
「メイちゃんは、おかあさんにちゃんとさよならを言わなくていいのかな……?」
「スザンナさんの魂はもうないんだよ? 残された体にさよならを言ってどうするの?
傷つけられた体を、しまいには大勢の前で殺す…… そんな場面を見せたいの?
魂の成熟度は上がるけどね! 幼い魂だったら壊れるかもしれないよ」
オルト兄ぃが不思議そうな顔をして私を見ている。
残された体って言われても、私にとってはそれがスーおばさんだし、メイちゃんのおかあさんだよ? オルト兄ぃの言うことはよくわからない。
魂の成熟度とか、幼い魂かどうかなんかは知らないけど、ちゃんとお別れを言わないと自分の気持ちに区切りをつけられるのかな? って思った。目が覚めたらおかあさんが死んでたなんて、私だったら嫌だと思ったから……
「マルルカ、魂には強さや弱さがあるんだよ。メイちゃんは、まだそれほど強くないと思うよ。そばにいる人が、マルルカが、メイちゃんを見守ってあげるのも助けることだよ」
オルト兄ぃとそんなことを言っているうちに、外がなんだか騒がしくなってきた。
窓からは、街の人たちが教会と役場のある広場の方向へ向かっているのがちらほらと見えた。小声で何かを話していたり、ずっと下を向いたまま歩いている人もいる。
どんよりとした空は、夏の夕立が起こりそうな分厚い雲に覆われていた。
「僕たちも行こう! 悪い審問官にお仕置きだぁ マルルカ、準備してねー
アル兄ぃに姿を変えられていたときになった女神様を強く意識して魔力を練っていって!」
オルト兄ぃがニコニコして私に声をかけてきた。
オルト兄ぃは、あの鏡の間の着せ替え遊びをどっかで見てたのかなぁ? ちょっと恥ずかしい。
私は、元の姿、銀色マルルカちゃんに戻った。前は肩くらいの長さだった髪の毛が伸びて、床に届くくらいの長さまでになっていた。前よりもずっとスムーズに、さらさらと滑らかに体中に魔力が流れていくのがわかる。毎日、魔力を循環して、意識しないでも、ずっと茶色のマルルカちゃんになっていられるようになったからかもしれない。
からだがすごく楽になった。元の姿にもどって、ずっと魔力を使っていたんだなぁって実感した。
今までの、メザク様に教えてもらった魔力の使い方とぜんぜん違うんだっていうことが、やっとわかった。
あの姿をイメージすると、あのときに着ていた銀糸で裾に刺繍の入った白いオーガンジーのドレスになり、小さなネックレスだった守り石は、額を飾るようにキラキラとしたティアラに形を変えた。
すごい! 自分で着せ替えができた!!
それに、この守り石は何? 石からすごく力を感じる。
「すごいねぇ アル兄ぃの守り石は! そんな石をもらったマルルカがうらやましいくらいだよ
それにしても完璧! 女神さまだ! マルルカの魔力もだいぶ洗練されてきたね!
後は、マルルカは立ってるだけでいいからね! 後は任せてー
さぁ、僕らも行こう! お仕置きの時間だ」
立ってるだけで本当にお仕置きになるのかよくわからないけど、オルト兄ぃは、うれしそうにずっとニコニコしていた。
「オルト兄ぃ……私はこの格好のままで行くの?」
「大丈夫だよ。マルルカが声を出さない限り、みんな気づかないようにしてあるから!」
あぁ、地下牢にいくときに、守衛さんが気づかなかったときと同じことなのか……
オルト兄ぃの魔法は、アル兄様のもそうだけど、よくわからない。
途中、私に気を留める人もなく、私たちは街の広場まで来た。
教会を背にして、人の背丈ほどの高さの舞台が設置されていた。舞台の中央には2メートルほどの長さの丸太が1本立てられていた。
その舞台を囲むように、大勢の街の人たちが集まっていた。これだけの人が集まっているのに、口を開く者は誰もおらず、話し声ひとつ耳にすることはなかった。薄曇りの空模様と相まって、どんよりとした どこかピリピリとした空気が漂っている。
私たちの後からも来る人がいて、私たちはその人たちから押されるように集まっている人たちの中ほどまでに足を進めていた。女神様みたいな場違いな格好をしているのに、本当に誰も私に気づかない。
声を出しちゃダメって言われていたけど、とてもオルト兄ぃにも話しかける雰囲気じゃない。
「ブリドニクの街の者たちよ。セリス様の子どもたちよ!」
役場ですれ違った黒いローブを身に着けていた審問官が舞台に上がってきて、集まってきた街の人たちに向かって、両手を高く上げて声を上げた。
「これより、魔女裁判を行う。女をここに!」
両脇を2人の審問官に抱えられて、傷だらけでボロボロになったスーおばさんが舞台の中央に連れてこられた。そして、そのまま中央にあった丸太に縛り付けられたのだった。
集まった街の人たちの中からは、小さな悲鳴のような声があちこちで上がった。それを耳にした中央にいた審問官は、街の人たちをぐるりと見まわして、好奇心もあらわな表情を見せた。
「この者に同情する者は、魔女の仲間ということかな?」
審問官は、ニタリとして一人ひとりの顔を覗き込むように見まわしたのだった。
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