第36話 でっちあげ魔女 本当の悪魔?

  メイちゃんを入れて3人で食事をする。ここにメイちゃんがいるのって不思議な感じ。

「すごい! これ、オルトさんが全部作ったの? お店で食べるみたいなごはんだよー」

 叫びながら入ってきたメイちゃんは夢だったんじゃないか?って思うくらい、いつもの私の知っているメイちゃんだ。おかあさんのことも、助けてっても一言も話さない。


 何? これ・・・・・・オルト兄ぃの魔法?

 こんな魔法ってあるの?

 でも、オルト兄ぃが魔法をかけてるのは全然わからなかった。


「メイちゃん、おかあ……」

 メイちゃんにおかあさんのことを聞いてみようとしたら、オルト兄ぃは私を睨んで首を振った。話したらダメみたい。

 ニコニコとくるくるした表情をしながら、「おいしぃー」ってよく食べて、よくしゃべる、いつものメイちゃんがいた。




 食事を終えて、私は片づけをしてお茶をいれるのに席を立った。片づけとお茶をいれるのは私の役割だ。


「メイちゃん、どうしてここにきたのか教えてもらおうか?」

 ポロ茶をオルト兄ぃとメイちゃんに渡すと、オルト兄ぃがメイちゃんに静かに話しかけた。


「お願い、おかあさんを助けて! 街の人たちは誰も助けてくれなくて……

 あたし、マルルカちゃんたちしか思い浮かばなくって……」

 メイちゃんは見る見るうちに涙をあふれさせて、オルト兄ぃの問いに答えるように、泣きながら話し始めた。


「今日、教会の審問官が来たの・・・おかあさんをつかまえるって・・・」

「えっ!!? なんで?」


 私は思わず持っていたカップを落として割ってしまった。

 審問官っていう人は堕落している人を罰するって、アル兄様が言ってた。

スーおばさんなわけないじゃない!! 絶対間違ってる!!



「マルルカ、落ち着いて。メイちゃんの話を聞こう」

 オルト兄ぃは私にそう言うと、私が割ってしまったカップをさりげなく魔法で消して、何もなかったようにしている。

 メイちゃん、オルト兄ぃが魔法を使ったことに全然気が付いていない!

 私もオルト兄ぃと同じように何もなかったように席を立って、もう一度、自分のためのポロ茶をカップに入れてきてメイちゃんの隣に座った。


「おかあさんがね、悪魔のおまじないをしたって言うの・・・・・・

 魔女なんだって・・・・・・魔法を使ったからって」


 えっ? 私のせい? 私が自分で気づかないうちに刺繍に魔力を込めちゃったから?

 それを審問官の人が察知したの?


 どうしよう・・・・・・ 体の震えが止まらない。

 オルト兄ぃにそっと視線を送ると、オルト兄ぃは私の考えていることがわかったのか、違うと言うように目をつぶって首を振った。



「悪魔のおまじないって、何をしたって言ってたの?」

 オルト兄ぃがメイちゃんに静かに声をかける。


「昨日の夜、教会の裏の墓地のおとうさんのお墓で、おかあさんがおとうさんの魂を呼ぶおまじないをしてたって言うの! 

 おかあさんがしていないって言っても信じてもらえなくて・・・・・・

 審問官の人が、おとうさんのお墓にあったっていう、魔法の模様を書いた紙を見せて、『デイビッドと書いてあるのが証拠だ』って。

 そのうえ、おかあさんの部屋から、おまじないの言葉を書いた紙が出てきて・・・・・・

 おかあさん、泣いちゃって・・・・・・そのまま連れていかれた・・・・・・」

 メイちゃんは、ずっとうつむいたまま、ポロ茶のカップを握りしめて泣いていた。



「近所の人が大勢集まってきたから、『おかあさんを助けて!』ってお願いしたけど、誰もなんにも言わなくて・・・・・・

八百屋のおばさんが『もうだめだ。早くお逃げ!』ってこっそりあたしに言ったの。あたし行くところもないし・・・・・・ひとりぼっちになっちゃった」


「メイちゃん、つらかったね。よくわかったから、今日はもうおやすみ。

 あした、おかあさんに会いに行こうね」

 オルト兄ぃが声をかけると、メイちゃんは無表情にコクンとうなずき、すっと立ち上がった。そのままお部屋を教えているわけでもないのに、だまって私の部屋に入っていった。




「オルト兄ぃ! どうなってるの? メイちゃんに魔法をかけたの? 

 でも、あんな魔法、私知らない」

「マルルカは知ってるはずだよ? だって魔王城でアル兄ぃにかけられてたでしょ?」

 私がアル兄様にかけられた?



 あぁ…… 鏡の間のときのこと……

 あのときは怖くて混乱してて……でも、アル兄様の声だけは、聞きたくなくてもはっきりと頭の中に響いてきた。恐怖で混乱しているのに気持ちが落ち着いている不思議な感覚!

 アル兄様の声に抗うことができなかった。



「思い出した? あれとおなじさ! あの時と違うのは、僕がメイちゃんの湧き出ていた感情をちょっと食べた!」

 オルト兄ぃは、ケラケラ笑いながら、なんかとんでもないことを言った。


「感情を食べた?・・・・・・」

 夜になって気持ちいい風が入ってくるのに、じんわりと汗ばんでくる。

 魔王城のときのことを思い出したから? 心がざわざわしてきた。

 これ以上、この話をオルト兄ぃに聞いたらダメだ!! 怖い・・・・・・



「スーおばさんは魔女・・・・・・なの?」

「いや、違うよ。ノージスに暮らす、魔力なんかもっていない普通の人間だよ。

 悪魔のおまじないも魔法の模様なんてものも、この世界にはないさ。どんなものかは知らないけど、大方、教会の誰かが適当に作ったんだろう!

 力のない者に、死んだ人間の魂なんか呼べやしないよ。もし仮に呼べる者がいたとしたら、僕にはすぐわかるし。

 だから、スザンナさんが悪魔のおまじないをしたっていうのは審問官のでっちあげだよ。

 罠をしかけられたんだろうね。きっと」



「そんな・・・・・・! スーおばさんはどうなっちゃうの?」

「魔女だと言われれば、魔女裁判にかけられる。そして確実に魔女と認定されて処刑される」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る