第20話 再会

「ヴァニタス枢機卿 ご歓談中失礼いたします。

 枢機卿にご挨拶をしたいという方がお見えでございます。いかがいたしましょうか?」

 給仕係の人がドアをノックして部屋に入ってきた。


「挨拶? 誰だろうか?」

 アル兄様が首をかしげる。


「勇者ハリー様でございます」




 ハリー!!!!!!


 私の感情が大きく揺らぎ、魔力がどんどんと うねっていく感覚がわかる。


「モリー! 」

 隣に座っていたオルトが私の手を握りしめた。

 アル兄様が目を細めて私をじっと見ている。






「わかった、会うこととしよう。お通しして」

 アル兄様がそういうと、給仕係は一礼をして部屋を出て行った。


「オルト、モリーを頼むよ」

 アル兄様はオルト兄様にそう言うと、私に顔を向けてうなずいた。













「ヴァニタス枢機卿様 ハリーです」

 しばらくして、ノックの音がすると よく知っているハリーの声が聞こえた。

「入り給え」

 アル兄様が声をかけると、ドアが開き、ハリーが一礼をして入ってきた。




「突然のお願いにもかかわらず、許していただいてありがとうございます。

 ハリーと言います。

 偶然、ヴァニタス枢機卿様の姿を見かけたので、一度挨拶させていただきたくて

 厚かましくお願いしました」


 サラサラ金髪を自慢してたハリー、最後に見たときと同じ笑顔!!


 この人は、私を谷底に突き落としたことを何とも思わないの?

 もう、忘れちゃったの??

 ずっとザワザワした感じで、ちっとも落ち着かない。


 ハリーの顔を見ると、あのときのことを思い出し涙が出そうになる。慌てて、私は顔を伏せた。



「わざわざありがとう。私がアルレオール・ヴァニタスだ。向かい側にいるのは私の弟妹だよ。オルティウスと可愛い妹のモリーだ」

 オルト兄様は軽く会釈をしているが、私は顔を上げることができない。

 オルト兄様がずっと手を握っていてくれる。 体中を魔力が激しくうねっているのがわかる。


「モリーは恥ずかしがり屋さんでね。初対面の男性には、まだ緊張してしまうんだよ。

 あまり外に出したことがないものでね。許してやってほしい」


「とても美しい!! 

 守ってあげたくなるようなお嬢様です。大切にしているヴァニタス卿の気持ちがよくわかります」


 ハリーがじぃっと私を見て、それから視線でなめ回すように私を見つめているのがわかる。


 いやだ・・・いやだ! ・・・・・・いやだぁー!!


 叫びたいけれど声が出ない。




「ハリー殿の素晴らしい活躍とその強さは、私も聞いているよ。そのうちに、ゆっくり君と話をしたいものだ」


「ぜひ、その機会を僕にください! 必ずヴァニタス卿を楽しませてみせます!

 オルティウス様と・・・・・・そしてモリー様もぜひ!!」


「すばらしい自信家だ。さすが、勇者と称えられるだけありますね。ハリー殿。

 いずれ、こちらから連絡をしましょう。

 今日は弟妹と水入らずで時間を過ごしているので、申し訳ないがお戻りいただくとありがたい」


「はい! 貴重なお時間をいただきありがとうございます!!

 お招きいただけるときを 楽しみにして待っています」

 ハリーは爽やかな笑顔を残して部屋を出て行った。










「モリーは大丈夫か? オルト」


「いや・・・・・・手を離すと魔力が暴走する」


 アル兄様は何も言わず、私のほうへきて、いつものように頭に手を置く。

 アルさんの手の感覚! ポワッと温かいアルさんの魔力だ。

 だんだんと、温かい感覚が頭のてっぺんから体中に染みわたっていき、激しくうごめいていた私の魔力を包みこんで、吸い取っていくのがわかる。


「これでひとまずは大丈夫だろう。オルト、手を離しても問題はない」

 オルトは握っていた手をそっと離した。



「ごめんなさい。アルさん、オルト。あたし、あたし・・・・・・」


「いいんだよ。マルルカ・・・・・・もう、モリーにはなれないようだから、今日は帰ろう。

 今度また、ゆっくりと来ようね」



 気が付くと、あたしは銀色マルルカになっていた。

「ここを出るだけだから」といって、アルさんはあたしにアルさんのマントを頭から被せて抱っこした。

 レストランの人はびっくりしながらも心配そうにして、あたしを見ていた。アルさんが何か言っているのはわかったけど、よくわからなかった。

 そのままレストランを出て、人気のないところで、あたしたちはお城に転移した。







 ハリーの姿を見てから、あたしがずっと思ったのは、

 どうして、あたしを殺したのにハリーは平気な顔をしてられるんだろう?? ってことだけ。


 もちろん、目の前にマルルカがいるなんて、ハリーが思いもしないのもわかってる。

 でも、ハリーは生きていて、デレクもきっと生きていて・・・・・・


 でも、マルルカは死んだ。




 マルルカを殺したハリーとデレクは、普通に生きているんだっていうことが、ハリーを目にしてやっとわかった。


 ちょっとでも、悲しいって思ってくれたのかな?

 ちょっとでも悪かったかなって思ってくれた? 


 メザク様は悲しんでくれた? ちょっとでもさみしいって思ってくれた?



 誰も、何も思ってやしない・・・・・・


 それだったら、あたしは、最初っからいないのとおんなじだ!!!


 だから、あたしはあのとき悲しかったんだ・・・・・・


 ハリー、デレク、メザク様の心の中に、あたしはいないって、そんなことわかってた。

 わかってたのに、それを知るのが怖くって、気づかないふりして、あたしはそれから目を逸らしてたんだ。 




 私が認めたくなかったんだ。












 やっとわかったよ・・・・・・アルさん・・・・・・










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