第10話 魔王城 再び(2)
魔・・・王・・・・・・
漆黒の長い髪に、冷たく輝く赤い瞳の男。
鏡の中の男の顔は怖いくらいに美しく目が離せなくなってしまう。
でもそこに浮かぶ表情は優しさのかけらもないほどに冷たくて、体が凍りついたように動けなくなってしまった。
悲鳴をあげたくても声が出ない。本当の恐怖だった。
あのときに戦った魔王とはぜんぜん違う姿だったけど、感じる魔力が同じだったんだとやっとわかった。
魔王は魔力の張りぼての作り物・・・・・・アルさんが作った魔王
マルルカはやっと意味がわかった。
「言ったであろう? 真実の姿を映す鏡だと・・・・・・」
これが本当のアルさん?
鏡越しで見る男の口から、頭の中に直接声が響く。
その声を聞きたくない、知りたくないと、どんなに願っても、それを叶える余地すら与えない冷たい響きだった。
動くことも、声を出すことすらもできない。
「マルルカ お前の体は魔力で成長する。それは人ではなく魔人・魔物の類の魔力だ。
お前が何者かは私も知らぬ。
お前を怖がらせるつもりはない。姿を変えることができることを教えるだけだ
魔力で構成された体は、その姿を変えることができる。私のようにな・・・・・・
戦った魔人の中にも髪の毛が剣に変わった者もいたであろう?
魔物が形態を変えるのを目にしたこともあろう?」
アルが静かに言う。
そう言って、マルルカを自分の方へと振り向かせた。
目の前には、人を畏怖させる魔力も消え、心を凍らせてしまうほど冷たい美しさのアルさんだった人がいた。
マルルカは、魅了されたかのように目の前にいるアルから目が離せない。
「マルルカ、お前には姿を変えることを覚えてもらう。
銀色の髪と瞳は、人の世界では目立ちすぎる。私の姿のようにな
目立っていいことはあまりないからな」
恐怖と驚きで大きく乱れていたマルルカの心は、アルの声を聞いているうちに、静かに落ち着いてきた。
何か魔法をかけられた? 心の隅でそう思う。
アルの声が一句一句体に染みてくる。
アルは、マルルカを右側の鏡の前に立たせた。
そこにはいつもの茶色の髪と茶色の瞳の優しい笑顔のアルさんが映っていた。
あたしは、やっと体の力が抜けたのに気が付いた。
「マルルカの髪は、今は肩に届くくらいだけど、長さも魔法で自在に変えることができる」
アルさんがマルルカの肩に手を置くと、マルルカの体の中の魔力がざわめき、髪は一瞬で床に届く長さになていった。サラサラと流れるような銀色の髪は、水の流れのようにキラキラと輝き、真っ白なオーガンジーを重ねた軽やかなドレスを身にまとったマルルカがそこにいた。
「長い髪のほうが似合うね。
髪は切ってはダメだよ。全部君の魔力だからね・・・・・・」
「きれい・・・・・・でも、あたし こんなドレスなんか持ってないよ? 」
「あぁ、お城にあったドレスを一時君の者にしといたんだよ。姿を変えられるようになれば、自分のドレスであれば衣装替えも練習すれば一瞬でできるようになる。便利でしょ?」
得意げに言ってるアルさん。
「そして、髪の色、瞳の色も変えることができる。このようにね」
また、体の中の魔力がざわめいている。
アルさんと同じ茶色の髪に茶色の瞳のかわいい少女が水色のエプロンドレスを身に着けて立っていた。
「これで外に買い物にいけるでしょ?」と、ニッコリと笑いかけてくる。
「魔力が体を作っているっていうことは。姿かたちも自由自在に変えられるっていうことだよ」
今度は、マルルカが恥ずかしくなってしまうくらい大きな胸がこぼれそうなドレスを着た、アルと同じ漆黒の髪と赤い瞳をした妖艶な女性が立っていた。
「アルさんはこういう女の人が好きなの?」
「もちろん大好きだよ。ちょっといたずらが過ぎたかな?」
アルさんはケラケラと笑った。
「1つだけ忠告しておくよ。どんなに魔法で姿形を変えても、立ち居ふるまいやしぐさは魔法では変えることはできないし、知識だって増えるわけじゃない。
ぜんぶ身につけていくしかないんだよ。
いくら君の外見が魅力的な女性になっても、中身は変わっていないでしょ?
だから外見を自由自在に変えることができても、その姿に合った振る舞いができるようにならないとダメってことだよ。
そして一番残念なことは、君が本来の姿にふさわしい立ち居振る舞い、教養が身についていないってことなんだけどね」
アルさんは、本当におかしそうに笑った。
「まずは僕と同じ茶色の髪と瞳の少女の姿でいられることだ。できるようになるまで少し時間はかかるけど、がんばろうね。
そこまでできると誰も死んだマルルカって思わないでしょ? 普通に暮らすことができるだろうし。 その後は、マルルカの好きにしたらいいよ」
アルさんの言ったことはすごくわかったけど、なんか、アルさんにからかわれて遊ばれてる気がしてしょうがない。
「アルさんは、こうやって他の人の姿を簡単に変えることができるの?」
「そんな無駄なことはしないよー。君の中に僕の魔力が混じってるから簡単にできるのさ!」
(あたしの中にアルさんの魔力が混じってる?? そんなことってできるの?
あー 魔力の開放のときの温かい感じがそうだったのか・・・・・・)
「あなたは、誰なの?」
マルルカはやっとのことで、その言葉を口にすると、堰を切ったように言葉があふれてくる。
「なんで魔王なんか作ったの? なんであたしを助けたの? なんであたしはここにいるの? いったいあたしは何なの? 人じゃないの? 魔物? 魔人? アルさんも魔物????」
わからないことだらけだ。
「あせるな。いくらでも教えてやるって言っただろ?
夜も遅いから、もう寝るぞ」
アルさんは黒いアルに戻っていた。
「魔力は魔法を使うのではない。魔力は干渉する力だ。それすらも知らない者がなぜ賢者と呼ばれる?
人の与える称号はその程度と知ることだな。
お前には、学ばねばならないこと、経験しなければならぬことが山ほどある。まだ子どもなのだから、その時間はいくらでもある」
アルがそういうと、マルルカはそれっきり深い眠りに落ちていた。
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