第5話 マルルカ 目覚め

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・っっ??

 あたし ・・・・・・・・・ 生きてる? 死んだ??

 ここ・・・・・・ どこ・・・・・・???


 そっと目を開ける。


 ベッドに寝てる・・・・・・みたい。


 ぐるりと顔を向けると、すぐそばに小さな木のテーブルとイスが1つあるのが 目に入った。

 緑のやさしい風が頬に当たって気持ちいい。反対側を見ると、小さな窓が開いていて、そこから木々の枝がみえる。

 小さな部屋だけど、気持ちのいい場所・・・・・・

 


 ギィッーー 扉の開く音がした。


 音のするほうに目を向けると、男の人が入ってきた。

 20歳くらい? いや、もうちょっと上? 優しそうな人だ。

 うす茶色の髪を後ろで一つに束ねていて、白いシャツに茶色のズボン、深緑のベストを着ている。

 森の番人みたい…… ってちょっと思った。


 男の人はあたしが起きているのを見ると、ニコニコしながら話しかけてきた。


「気が付いたんだね。よかった」


 持ってきた水差しからテーブルの上にあった洗面器に水を注ぎ、絞った手ぬぐいをあたしに渡してくれた。 それからちょっと心配そうに、茶色の瞳で私の顔をじっと見ている。


 

「もう自分で、拭けるかな? 温かいお茶を持ってくるから、ちょっと待っててね」

 そう言って、男の人は、また部屋を出て行った。


 ベッドからそっと体を起こしてみる。なんかフワフワしてるけど動けるみたい。

 渡してくれた手ぬぐいを顔にあてる。

 森の匂いがして水の冷たさが気持ちいい。顔から首のあたりまで拭いていく。


 ・・・・・・真っ白な木綿の寝間着???

 あの男の人が着替えさせてくれたのかな・・・・・・?

 身体中のぶつぶつ、見られちゃったね・・・・・・いやだな・・・・・・



 しばらくして、男の人がカップを2つ手にしてやってきた。あたしにカップを1つ渡すと、椅子に腰かけた。


「ポロ草のお茶だよ。君の心と体を落ち着かせてくれる」


「あ、ありがとう・・・・・・あの、助けてくれて

 あたし、マルルカって言います」


「僕はアル。ここは街はずれの森の薬屋だよ。

 君がボロボロだったからほっとけなくてね、連れてきた」


「街? ここは・・・どこ・・・?」


「あぁ、ゆっくりと話そう。まずは、温かいうちにお茶を飲んで」


 ポロ茶を一口飲んだ。爽やかな甘みを感じる。あったかいお茶がお腹にジワーって染みてくる。


「君は1日中眠ってたんだよ。着ているものもボロボロで汚れていたから、着替えさせてもらった。 勝手にして悪いことしちゃったね。ごめんね」


「あっ! あ、あの・・・ごめんなさい。あたし汚いから・・・・・・」


 マルルカは、毛布をぎゅっとつかんで顔を隠す。



 ずっと一緒にいたハリーとデレクにでさえ、いつも大きな三角帽子とローブですっぽりと自分の姿を隠していたから、こんな明るいところで姿をさらしていることに、とっても恥ずかしくなってきた。



「汚い?  あぁ、確かに君は歪だね

 君は、魔力の使い方を間違ってるね。だから、そんなに歪んでしまった」


「歪? ・・・・・・使い方が間違ってる?」


 マルルカは初めて言われた言葉に、掴んでいた毛布を離し、自分の手をじっと見て、それから顔を触ってみる。


 ブツブツがいっぱいできてるあたしの手、顔、体中ぜんぶ・・・・・・


 アルは安心させるかのように、優しくあたしのポヤポヤ産毛の頭の上にそっと手を置いた。

 ポヤポヤ産毛の頭の上に置かれたアルの手がとっても暖かくて、気持ちいい。



「マルルカちゃん、君は、人では扱え切れない膨大な魔力量をもって生まれたのだろう。

 君の周囲に被害が及ぶほどにね。だから魔力を抑え込んだのだろうけど、それが君の成長を妨げてるんだよ」


「え? だから、あたし小さいままなの?」


「そうだね。体中にできたブツブツも、髪の毛がちゃんと生えなかったのも、君が魔力を体の成長に使わなかったから、そうなった。

 本当は君の体の成長に魔力が必要だったのに、使わずに抑え込んでしまった。だから抑え込まれて行き場のない魔力が体に出てきたから、歪んでしまった」


「そんな・・・・・・でも、メザク様が魔力を閉じ込めろって言った」


「メザク様? アハハ・・・・・・君の魔力の性質は魔人や魔物に近い。メザクに、人にその魔力の扱い方がわかるわけがなかろう」


 アルは笑いながら言った。


 (この人薬屋さん? メザク様を知ってるの? 賢者? あたしは人じゃないの?)

 アルさんが何を言っているかよくわからない。


「あぁ、そうだね。わかんない顔しちゃってるね。一度に言い過ぎた。ごめんね。

 僕、説明が下手くそでさー 不安にさせちゃったかな?」


 アルはそう言って、あたしの頭から手を離した。


「まぁ、時間もいっぱいあることだし、少しずつを知ってくれればいいよ。

 いろいろと教えてあげられると思う。君のことにも興味あるしね。

 でも帰りたかったら、メザクのところにも、どこにでもいつでも帰してあげるから。安心して」


「あたし、帰るところがないかも・・・・・・死んだことになってると思う」


「そうなのかい? 君の事情はわからないけど、それだったら落ち着くまで好きなだけここにいていいよ。君の歪みをちゃんと治すこともできるしね」


「あたし、大きくなれる? 」


「ちゃんと大きくなるし、全身のぶつぶつも消える! 大丈夫だから、僕を信じてくれないかい? 

 最初に言うことは一つだけ! 魔力をすべて開放しなさい。開放しても、ここでは何も起きないことを僕が保証するから、安心するといいよ」



 空になったカップを持って、アルは部屋を出て行った。




 何だか、さっぱりわからない。

 あたしは、ハリーとデレクに崖から落とされたんだよね?

 ここは、あの崖の下? 街があったの?? 


 アルさんってすごい薬屋さんなのかなー?

 メザク様の知り合いらしい。賢者かなー? 

 だったら、魔力の扱いを知っているのかもしれない。


 ちゃんと大きくなれるって言ってくれた!!



 いろいろと教えてくれるみたいだし、ずっとここにいていいって言ってくれた。

 優しそうな人だし、大丈夫だよね? いざとなったら、隙を見て逃げればいい。




 魔力の開放か・・・・・・

 大丈夫なのかなぁ? 

 部屋を壊さなきゃいいけど・・・・・・


 アルさんは、大丈夫って言ってたよね。

 それに1日中、意識を失っていたみたいだけど、壊れているものもないし。


 信じてみよう! 

 魔法を使うときのような感じなのかなぁ? でも、何の魔法を使うの? 

 いや、使うんじゃなくって開放・・・・・・


 アルさんの手のあったかさが、頭の上にまだ残ってる。それに魔力を向けてみる。





 しばらくして、ほわぁーんって、何かつながった気がする。あったかくって気持ちいいな。


 もっと魔力を向けてみる。

 体中が、ぽかぽかしてくる。あったかいお布団に包まれているようで、とっても気持ちいい。



 なんか、眠くなってきた。




 いつの間にか、マルルカは深い眠りに落ちた。










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