2つの世界の物語 

星あんず

第1章 はじまりの1歩

第1話 プロローグ

「マルルカ、 奴を一瞬でいいから止めてくれ! できるか?」


(魔力がない。チェーン(鎖)なら発動できるけど、後ろからじゃ届く前に弾かれるはず・・・・・・近くで発動するしかない。)


「わかった・・・・・・ あたしが前に飛び出したら、それが合図!」



「よし! デレク、これで決めるぞぉー 」

「おぉよぉ~ ハリー! まだいけるぜぇぇ!」



 魔王城王の間で、剣神と呼ばれるハリー、剣王デレク、そして賢者マルルカの3人が、魔王と最後の戦いを繰り広げていた。


 大きさのどす黒い色をした黒い角2本と暗く濁った光をもつ赤い瞳の魔王は、5メートルはある。対峙していると、半端ない威圧感で足がすくみそうになる。

 今まで戦ってきた魔物や魔人たちとは比べようがない。



 ハリーとデレクの二人と一緒に魔王を討つため、マルルカが師匠メザク様の元を離れたのは1年前。

 二人がメザク様に魔王討伐の同行を依頼してきたのが始まりだった。

 

 そのときから、二人とも「当代至高の強さ」、「ハリーとデレクに勝るものは互いのみ」と言われていたが、さらなる高みを目指すために、二人で魔王を討つことにしたのだ。


 10年から20年に一度は現れるという魔王を討伐するために、通常は、精鋭揃いの部隊を編成する。

 魔王が現れると、世界中の魔物の数が増えて数段強くなり、あちこちで魔物による被害が増えてくる。そのまま時がたってしまうと、場所によっては魔物のスタンピードが発生し、街ごと破壊されてしまい、最悪、国が滅んでしまうのだという。


 だから魔王が現れたら、絶対倒さなければならない!


 討伐を指示した国からは、討伐のための準備費用が出るし、魔王を倒せば莫大な報奨金も出る。


 ただ二人は、「討伐隊を編成すれば、準備金のほとんどが隊の維持にかかり、一番討伐成果を出せるはずの自分たちの取り分が極端に少なくなるのは割に合わない」と考えたのだ。


 自分たちに魔王を倒すだけの力はある!

 足りないのは、戦闘を続けるための後方支援だけだ。


 当代一の賢者と言われるメザクが後方支援をしてくれさえすれば、三人で討伐できると考え、賢者メザクのもとを訪れた。


 二人の話を聞いたメザクは、「めんどくさい」と、一言だけ言って討伐同行を断った。

 それでも引かない二人に根負けする形で、マルルカを連れていけと言ったのだった。


 ハリーとデレクの前に連れてこられたマルルカは、6歳児くらいの子どもにしか見えなかった。

 その上、髪の毛すら満足に生えておらず、体中にぶつぶつとあばたができていて、醜い魔物のようだった。


 そんなマルルカの異様な姿に、二人とも口も聞けない様子だった。


「見た目はこうだが、こいつは魔力の化け物だ。

 これでも13歳。後2年もしたら成人するぞ。

 こいつが足手まといだと思ったら、そこらへんに捨てるかしてくれたらいいさ。

 別にわしに金はいらん」


 メザクが、まるでゴミを捨てるかのように、二人の前にマルルカを押し出した。

 その後は、この話に、まるっきり興味を失くしたようで、そそくさと奥の部屋へと入ったっきり、2度とその姿を現すことはなかった。


 目の前にいる汚いマルルカを眺めながら、途方にくれるハリーとデレクだったが、とりあえずは腕試しと、マルルカを連れて、メザクのもとを離れることにした。

 メザクに押し付けられた、この汚い子どもがいらなければ捨てればいいだけだ・・・・・・




 それから約1年。

 ハリーとデレクと一緒に、増えてきて人に害をなす魔物を倒しながら、やっとここまできた。



 荘厳な雰囲気の広い王の謁見の間には、あたしたち3人と魔王しかいない。

 謁見の間には、窓もなく外の様子を知る由もない。

 この部屋の扉を開けてから、戦いの始まりをハリーが叫んでからも、魔王は一言も発することなく、ニタニタしてただ3人の前に立ちはだかっていた。


 魔王というだけに、攻撃魔法の威力が半端ない。魔王から繰り出される攻撃魔法を相殺するように、マルルカも魔法をずっと発動し続けていた。もちろん、ハリーとデレクの支援も欠かせないし、隙を見ては攻撃魔法を繰り出す。魔力タンクと言われるマルルカでさえ、さすがに魔力が目に見えて減っているのがわかる。


 魔王と向き合い、激しい戦いをいつからしていたのか、どれくらいの時間が過ぎたのか、3人とも既に意識することすらできなかった。


 目の前にいる禍々しい魔気を放ちまとっている魔王を、ただ自分たちが倒せることだけを信じて・・・・・・


 延々と死闘を繰り返してきた。



 ハリーもデレクも限界を超えている。並外れた魔力量を持つ賢者マルルカも、すでに魔力が尽きかけていた。

 魔王も魔力が減っているのか魔力を温存しているようだ。攻撃魔法を使わずに、物理攻撃になってきた。これが本当に最後のチャンスかもしれない。


(あたしが魔法を使えるのはこれが最後・・・・・・)


「今だ! いけぇぇぇぇぇー!!!!!!」


 ハリーの叫びとともに、後衛のマルルカが魔王に向かって走り出した。

 最後の魔法を行使する。


「ライト・チェーン 【拘束】!」


 マルルカの杖から線上の光の鎖が魔王に伸びていき、その体をとらえて縛り上げる。


(やった・・・・・・)


 同時に、ハリーとデレクが魔王に向かって左右から切り込むために飛び込んでいく。


「とどめだぁー ルクスクロス!!!」


 ハリーとデレクの2人の聖剣の軌跡が光の十字架を作り、一瞬動きをライト・チェーンで拘束され解除される直前、魔王に見事に切り込み、その首を切り落とした。


「ウオォォォォ!!!」


 魔王の最初で最後の絶叫を最後に、その体は霧散していった。



*********************************************************


「ライト・チェーン 【拘束】!」


 魔法を発動させると同時に、あたしはその場に倒れた。

【拘束】が失敗したら、ハリーとデレクが倒しきれなかったら、あたしたちは死ぬ。


 これが精いっぱいの魔法だった。

 わずかに残っていた最後の魔力を発動した魔法だったから、立っていることすらできなかった。辛うじて意識を保っていることができた状態だった。


 魔王の絶叫が聞こえ、この空間に漂っていた禍々しい魔気は消えていた。


 (やっつけた・・・・・・終わった・・・・・・)


 ずっと張りつめていた気持ちが緩み、安心感で心がいっぱいになったまま、意識を無くした。






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