地政学者フレデリック・ハイデマンの卓上遊戯

「さて、この時期だとそろそろ大雨が降るころだな、そのタイミングで地理的に貯蔵量も少なく扱いにくかったダムを壊せばあの平原が洪水で水浸しになるだろう」


 しかし街に洪水が流れて行ってはいけないな。


「おそらく洪水が押し寄せてきたらあの王族はすぐに逃げ出すだろう、すでに貴族も民もほとんど逃げ出しているから避難誘導は簡単だ、そっちの誘導は任せたぞパトリシア」


 あの平原は広大だが傾斜も緩やかで川が近く水を引き込みやすい、多少の傾斜は土留めをして段々畑のような形状にするのもいいだろう。


「まったく……パトリシアは素直すぎる、3歳のころ流れの占い師に『あの国の王と結婚すると幸せになれる』と占ってもらってからすぐあのバカ王子と婚約してしまった、輿入れのため多額の資金を支払うことを約束したら、あの王はすんなり受け入れ、最低限の貴族階級でないと王子の婚約者にはできないという理由でアザイラム領の伯爵になったんだったよな、本来王女なんだが……」


 それなら俺が王になってやる、これは僕が帝王陛下にお願いして実行しているボードゲームのようなものなのだ。

 僕もパトリシアもまだ小さかったがいつか一緒になるのではと子供心で想っていたのに……パトリシアの婚約を知った後、帝王陛下に直談判しにいったんだよな。


「ぱとりしあを、ぼくにください!」


 だったか……、今にしてみれば恥ずかしいが計算通り盤面になってきたようだな、陛下も許してくれたから助かった。


「いいぞ? ワシは仕方なく送り出したがお前のほうが正直いいと思っておる、あの土地の『王』がパトリシアの伴侶だぞフレディ坊、この盤面をひっくり返して見せてみよ」

「はい! ぼくがぱとりしあのよこにたちます!」


 あぁ恥ずかしい、けど言ったことに後悔はない。


「最初はパトリシアが通う学園にリリスを送り込んだことだったよな、うまいこと情報操作する事が出来た……リリスには苦労を掛けた」


 リリスは僕の乳母兼教育係だったのだが、パトリシアが入学する際に家に頼み込んでリリスを学園に潜り込ませてもらった。


 ――お? 降ってきたな……。


「パトリシアの本当の身分と、この国の存在意義を内部からじわじわ伝えるにはこの方法しか思いつかなかった、ビラを撒いても大人は信じないからな、何年もかけて子供の世代から教えるのが一番だ」


 まともな頭を持ったグループはこれだけで大丈夫、これのお陰ですでに危険を感じて避難してくれている。


 ――雨がだんだん強くなってきた、予定通りだ。


「あとはお花畑な脳みそを持ってるけど見た目が良い令嬢をルーカスに押し付ければほぼ成功だ、パトリシアは表情分からないからなぁ……きっと嫌われてる……見た目だけで判断するって有名なルーカスならって思ってたけど、想像以上だった」


 火種として使わせてもらったんだけど……プリシア嬢は凄かった、勝手にいろいろ動いてくれたおかげで悪い貴族のあぶり出しも勝手にやってくれたし。


「……お! 王族が逃げ始めたか? いや……あれは王子か? でもまぁもう発動のタイミングは変えられないからな」


 王都の大掃除&王都北大平原の田んぼ化計画、最終章のスタートだ!

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