教師リリス・フックスの溜息

「はぁ……何ということでしょう」


 あの才女パトリシア様が、あの愚王の血を引いてさらに出来の悪い殿下に婚約破棄されてしまいました。


「しかもなにやら罪状があるようなことまで、監視という名の護衛が常時10人は付いていらっしゃるのに無理があるわよ」


 この情報がこのままダンテミリオンの王族に届いたら確実に王家そのもの取り潰しだわ、でもそれを止めるすべはないし、責任を取らされる前にどうにかしないと、勘の鋭い……いえ、一番醜い部分をいつも近くで見ていた彼、ヘンリー・ノイマン宰相は早速逃げることにしたみたいです、私もやはり逃げた方が良いかもしれませんね。


 街へ降りてみるとやはりパトリシア様や宰相の息のかかった店舗はすでに撤退していますし、こうなったらすでに物流は死んだも同然です。


 そうして街を歩いていると私の教え子が駆け寄ってきました。


「先生! 今日のアレまずいですよね? ウチの親も夜逃げの準備だって……どうなっちゃうんですか?」

「ウチもなんですよ、折角店開いたけどオシマイですよ」


 そうですよね、常識のある人間なら上位の強大な存在には逆らいません、マナー教育でこの王国の成り立ちを正しく聞いていた平民の子のほうがこういうのは聞き流さないものです。


 それに比べて貴族、特に上流貴族は自分たちよりも上の話になるとなぜか突然耳が悪くなられる始末。


「はい、私個人の意見としてはしばらくは身を隠すのが良いと思っています、ですがパトリシア様はこの地の風景を気に入ってくださっていました、街に火を放つようなことはされないでしょう、ですが物取りなどが起きやすい状況になると思いますので家や店舗の戸や窓を厳重に締め切ってから、避難しておくことが良いのではと思います」

「そうですよね! パトリシア様、また今度ピクニックに行こうって言ってました」

「その時はウチの店のサンドウィッチでって言っていました」

「はい、パトリシア様は決して約束を違うようなことはなされません、私もその時はご一緒できるとうれしいですね」

「そうですね! では私たちもいったん避難します、先生もお気をつけて」

「ウチは窓とかに板打ち付けてからそうしますね」

「はい、お気をつけて」


 あの子たちはよい子です、この地で生まれこの地のありがたみを知っている。


「私も彼に手紙を出しておきましょう、少しでもこの都市が無事で収まるように動いてもらえたら嬉しいですね」


 城のほうへと目をやると今までを守っていた輝きが段々と失われていくのが目に見えていくかのようです。


「私の今できることは、まずは生徒を守ること、それだけはやってみせますとも」


 でも……なんでこんなことになってしまったんでしょうか、私の手腕が足りなかったのでしょうか?


 はぁ憂鬱です、後のことは……フレディ頼みましたよ。

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