過去3
外は今日も張り切り過ぎている太陽のお陰で何もしなくても汗が流れる程の暑さだったが、この森は傘となった木々のお陰で真夏にしては過ごしやすい気温。そんな快適な空間を駆け抜ける私と真口様。まるでジェットコースターにでも乗っているような気分でそれだけでも充分に楽しかったのだが、私の胸では普段見れないような動物や景色、非日常との遭遇に対しても密かに期待が高鳴っていた。
だけど前回も微かに感じていたことだがこの森には私が期待するより遥かに動物がいない。というかゼロと言ってもいいのかも。洞窟から出発し暫く進んだとは思うが、動物はおろか虫一匹でさえ見ていないのだから。見たと言えば前回森を探検した時に見つけた大きめのカブトムシだけだ。
でもそれを補うかのように森の景色はとても美景だった。普段コンクリートに囲まれていると言っても過言ではない私にとっては特に。
そして身軽な真口様はお願いすると私一人じゃできない木登りなんかをしてくれた。父の肩車より高いそこからの景色は森の違う顔を見せてくれ、同時に開放的な気持ちが私の中で広がるのを感じた。
それからも私の要望通り森の色々な場所を(ほとんど似たような木々が並ぶ変わり映えの少ない景色だったけど。違いと言えば大小や苔の有無ぐらいだ)一緒に駆け回った。何もない森なのにずっといていたいと思う程に心躍る。
どうやら私はこの森が好きなようだ。前回はなんとなくでしか感じていなかったが今回でそれが確信へと変わった。この森にいると不思議と包み込むような安らぎが心を満たしまるで母に抱かれているような安心感を感じる。
それは何度目だっただろうか。前回より間隔が短く頻度が多かった真口様の休憩。木の足元で座り込んだり、木の上でゆっくりしたり。色々あるけど私の記憶に濃く刻まれているのは川沿いの小さな花畑で休んだ時だ。
川のせせらぎと時折聞こえる木々の囁き。心地好さに包まれたその花畑の中心で真口様は寝転がるように伏せ、私はそのすぐ傍へ。
真口様の呼吸を背中で感じながら私は以前父に教えてもらったある物を楽しみつつも真剣な眼差しで作っていた。父の説明を思い出しながら慣れない手つきで徐々に完成へと近づけていく。
「出来た!」
嬉しさのあまり声を上、両手で持ったソレへ満足に満ちた視線を向けた私。
そしてその声に反応しこちらを向いた真口様と視線を交換すると、手に持っていたソレをちゃんと見えるように彼の目の前へ。
「何だそれは?」
「これはね。花冠って言うんだよ。パパに教えてもらったの」
綺麗な花で(少し不格好ではあったが)囲まれた冠の穴を通し真口様の顔を覗き込みながら教えてあげた。
「可愛いでしょ。はい、じゃあこれは真君のね」
私はそう言うとその花冠を真口様の頭にそっと乗せた。
「勝手な事をするな。儂はいらん」
「大丈夫。似合ってるよ」
自分の作った花冠を被った真口様を見て更に満足げな笑みを浮かべた私は眉間に皺を寄せる彼の頭をそっと撫でた。余程幸せそうな表情でもしていたのか真口様は口を半開きにし何かを言う一歩手前だったが、言葉を溜息へと変えると口を閉じ顔を逸らした。
「さて、今度は自分の分作らなきゃ」
そして私はさっきより手慣れた手つきでもう一つ花冠を作り自分の頭に乗せた。すっかり達成感と満足感に満たされた私は頭の花冠が落ちないようにゆっくりと真口様へ凭れかかり両目を閉じる。
暫くの間はこの森の静けさとひとつになるように全身を弛緩させ、緩やかになった時の流れに身を任せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます