直観で生き抜く
鳥柄ささみ
直観で生き抜く
「もしかして、ここって……あのゲームの中……?」
目の前に広がる陰鬱とした雰囲気。
重々しく広がる濃霧と、まるで生ける屍のような存在がうろうろと徘徊しているのを目の当たりにして、おれは絶句した。
直観だが、これはいわゆる死にゲーと評判高いゲームの中だ。
そして今いる場所はまさしく冒頭に出てくるステージのそれであり、とてつもない既視感を感じた。
「マジかよ」
理解しがたいながらもとりあえず自らの装備を確認すると、どう考えてもシーフであった。
まさかのシーフ。
このおれがシーフ。
「何でよりにもよって、一番ハズレのシーフなんだよぉおおおお!!」
せめて武力か魔法に優れた戦士か騎士か貴族辺りのチョイスがよかったのに、なぜにシーフ!? 本来、このゲームって主人公が職業選べるのではなかったか? というか、ステータスの割り振り含めて選べるもんじゃないの!? と脳内で叫んでみるが、何も変わらず。
おれは選んでもない、技量と運が高いこと以外何の取り柄がない、俺自身に最も適正が低いであろうシーフでこのゲームに舞い降りてしまったらしい。
「夢か、夢だよな。夢なら早く醒めてくれ……!」
しゃがんで頭を抱えながら必死に祈るも何も変わらず。
ぎゅっと目を瞑っても、ホームに戻りたいと願っても景色は変わらなくて、どんどん焦りが募っていく。
「ん?」
不意に視界が暗くなったかと思えば、いつの間にかジリジリと近寄っていた亡者が目の前にいて、俺は慌てて回避して後ろに転がった。
「うぉっ!!」
ガキィン……!!
岩にぶつかったであろう刃物が削れる音に、呆然とする。
明らかに偽物ではない音のそれはどう考えても現実であり、しかも反動でふらふらとしながらも、亡者は引き続きこちらに迫ってきていた。
「嘘、だろ……?」
いっそ死んだら現実に戻れるかもしれない、と多少淡い期待もしたが、今回避した瞬間も避けたときの感触はリアルで。
恐らくあの刃をもろに受けたら死ぬ、と直感がそう言っていた。
死をリアルに感じると、途端に脂汗が噴き出してくる。
「しゃあねぇ、やってやろーじゃんか!」
ダガーを握りしめて立ち上がり、亡者に相対する。
だてにこのゲームはやりこんでない。
死んで死んで死んで死にまくって、2000時間はこのゲームにつぎ込んできたんだからある程度の立ち回りは憶えている。
「シーフなら、回避とパリィの組み合わせでいくっきゃない。こうなりゃ、リアル廃人のパワー見せつけてやる……!!」
おれはダガーを構えると、一気に亡者に向かって駆け出すのだった。
◇
「ようやく……ここまで来たぞ」
あれから苦難の連続だった。
いくらやりこんだからと言ってもさすがは死にゲー、非常に難しい。
いくら直観で回避しても、技術が足りない。
このAI生きてるんじゃねぇの!? ってくらい学習し、おれは死なないように何度も上手く逃げ回りつつパリィをしたが、ボス戦となるとそういうわけにもいかず、常に道具と回避と攻撃を駆使しつつジワジワ体力を削るしかなくて、正直死ぬかと思った。
だが、それもここまで。
やりこんでいてよかったー! と思えるくらい直観が冴え渡り、初見殺しも回避してどうにかラスボスもクリアした。
これでやっとこの死にゲー世界からおさらばだ! 元の世界に戻れる……!! と涙を流す。
「ここまでよく頑張った自分。やりこんでてよかった。生きててよかった……っ!」
そう呟くと、おれの意識はだんだんと薄れていき、薄れる意識の中おれは霧に飲まれるように身体がどこかに吸い込まれていった。
◇
「ここは……っ、て、おいマジかよ、嘘だろ……?」
気づけばおれは地下牢にいた。
そして言わずもがな、明らかに現実世界ではない。
一体どういうことだ、と考えるも再び既視感があることにおれは絶望した。
「まさか、続編……?」
おれを嘲笑うかのように、亡者がこちらを見ながらジリジリと近づいてくる。
「ふりだしに戻るとかふざけんなよ……」
項垂れるように自身を見下ろせば、やっぱり装備はシーフなわけで。
おれは大きく「はぁあああああ」と溜め息をついた。
そしてダガーを再び握りしめ、キッと前方にいる亡者を見据える。
「もう、こうなりゃ自棄だ! とことんやってやんよぉ!!!」
おれは亡者の攻撃を回避してパリィする。
おれの戦いはまだとうぶん終わりそうにもないと直観しながら、生きてここから抜け出すために、戦って戦って戦い抜くことを決めたのだった。
直観で生き抜く 鳥柄ささみ @sasami8816
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