世界の上から
トキヤとコウタは、"冥海"の側から聳え立つ"世界樹"を昇り、空に浮かぶ"ハイム"を見下ろせる枝までやって来た。道中、巨大な樹に付けられた長い階段を上るついでに傍にあった露店で服を調達したりしながら、のんびりとやって来た。
世界樹の各枝には巨大な陸や海のある球体が実っていた。
「でっかい樹にいろんな世界が実るんだ。本当ならもっとなっているんだが、今の管理者が九つを残して全部間引きしてしまったからな」
コウタはその一つを見ていた。
「あれは、"ミッド"。君の生きていた世界だ。懐かしいか?」
「いや……」
「それよりも、あれだ。切り離されて冥海に落っことされる途中の世界。あそこにこれから行くんだ」
二人の真下に巨大で平らな世界が浮いていた。
「"冥海"に落ちるまであと百年かかるはずだ。それまでにあそこを俺の世界にする」
「百年?僕たちあそこよりも下からあっという間にここまで登って来ましたよね?」
「神や死人に距離や時間なんて概念はないのさ。行きたいと思えばすぐにたどり着く。時間は世界の中にしかない。ここは世界の外だからな」
「???」
「ま、その内わかるさ。さてと、行きますか」
「えっ、どうやって行くんです?」
「そりゃぁ、もちろん」
トキヤはコウタの首に手を回した。察したコウタは顔を真っ青にした。
「飛び込むのさ!!」
「うぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
二人は"ハイム"に向かって落ちて行った。
コウタの視界に青い海と三つの大陸が移り、大きくなっていく。
「よし、ハイムの"熱圏"に入った!口閉じて俺から離れるなよ!」
トキヤは前に右手を出した。そこから赤い炎があふれ出て衝撃と熱がコウタを襲った。
(あっつ!大気圏突入にしてる!?)
二人は光を発しながらハイムの空気の層を突き破っていく。
「安心しろ!君は"不死身"だ!痛みも俺が術で和らげてやる!」
やがて、炎が消えると、今度は暴風が二人を襲った。コウタは和らげられているとはいえ、身を焼かれた痛みに耐え目をかろうじて開けるとそこには正しく世界が広がっていた。
「ようこそ!俺の世界(仮)へ!」
「それで!これからどうするんです!」
「海に落ちる!」
「パラシュートは!」
「ない!安心しろ!衝撃で二人とも粉々になるだけだ!」
「安心できるかぁぁぁぁ!!」
「大丈夫!あとでちゃんと蘇生する!神を信じろ!」
「来るんじゃなかったぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」
コウタの絶叫と共にハイムの近海に白煙が轟音と共に鳴り響いた。
コウタが気付いた時にはトキヤに海から引き上げられていた。二人は浜辺で服を乾かしていた。
コウタはトキヤを観た。来る前と同じ夜の様な滑らかで深い黒髪に精悍な顔立ちをしてスラリとした小男で、花のような三日月のような奇妙な杖を持っていた。一方で、コウタは雲のように白い髪を肩くらいまで伸ばし、コウタよりも背は高い容姿であった。
(飛び込む前より少し身体をかえられた気がする)
そう、思いつつ、今し方大気圏外からのフリーダイブ(パラシュート無し)のトラウマを植え付けられたコウタは砂に腰かけながら海を眺めていた。
「海なんて何年ぶりだろう…」
「ほれ、焼けたぞ」
コウタに思いっきり殴られ頭にたんこぶの出来たトキヤは焚き火から甲殻類のような生き物を取り出してコウタに渡した。
「これどうやって食べるんですか…」
「知らん、焼けば食えるだろ。ほら、殻を割ったらおいしそうな身が詰まってるじゃないか」
バリバリボリボリと貪るトキヤにコウタはため息をついた。
「どうした、食べないのか?」
手の止まり小さく頷くコウタからトキヤは殻を取り上げるとそれに手をかざした。
『甦れ』
唱えた途端に殻が動き出し、たちまち元の姿に戻って動き出し海に還っていった。
「無駄な命は無くさないとな」
「それで、これからどうするんですか?」
「ああ、それはな」
トキヤは落ちていた枝で砂に絵を描いた。
「これがハイム。三つの大陸に十五の国がある。文明発達度は君の世界基準で言えば中世といった所かな」
「僕たちは今どこにいるんですか?」
「俺たちはこの北の大陸の南端、"サックス王国"の海岸線にいる。これから大陸の中心、"マジア王国"に向かうぞ!」
「そこには何が?」
「まぁ簡単にいえば拠点作りと物資調達だな。この国は北の七国の全ての街道に跨っているから物が集まりやすいんだ。特にこのイミリっていう街は辺境だが三つの街道の分岐点だ。ここに行こうと思ってる」
「一応、サックス王国寄りの所ですもんね」
「とはいえだ。この世界の通貨を持ってない俺たちには馬車を雇うどころか、関所も通れない。なので」
「まずは路銀集めですか…」
「その通り!さっき落ちてるときに大きな街が見えた。もう日が暮れる、明日そこに行こう」
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