崖っぷち神様と捨てられた世界
花嵐 龍子
二人の再出発
僕が死んだ日は雨だった。
不登校になって1年と半年、学校に行くことよりも他の同じ年代の人達から置いてけぼりにされていくような感覚が毎日襲ってきて、外に出るのが恐ろしかった。
なぜこんなにも惨めになったのか、理由もおぼろげになって上手く説明できない。
家族も、友達も、誰も僕の事は心配はしていない。
皆、自分の事で忙しいから。
もう、死のう。これ以上忘れられる前に居なくなろう。
そう思って仕事に向かった母親の残した朝ごはんを一人で食べていた時だった。
『オッハー!駅で待ってるから!』
スマホが鳴って画面に表示されたのは幼馴染のミナセからのメッセージだった。
ミナセは僕が閉じこもってからも、よく家に来て説得しに来ていた。
無視し続けて半年くらい前から来なくなったけど、SNSはたまに来ていた。
このメッセージが何を意味するのか分からない。でも、僕はミナセに会いに行こうと思った。
さよならとありがとう。を言うために。
久しぶりに身だしなみを整え、外に出ると雨が降っていた。
カッパを着て歩いて駅に向かう。嫌な雨でもこれが最後だと思うとなんだか濡れるのも心地よいものだった。
駅に着き、取り合えず終点までの切符を買って、ホームに出た。
時間は通勤通学の時間。僕はミナセのいるホームの反対側に立つ。
違う学校の生徒たちと混じってホームに立つと反対側に立つミナセと目が合った。
ミナセは少し驚いて固まったがすぐに後ろから声をかけられて目を離した。
ミナセは先輩の男と話していた。
時より戸惑ってこっちを見てくるけど、僕はただ見つめるばかりだった。
【間もなく、電車が参ります】
アナウンスを聞いて僕はようやくミナセから目を離した。
ホームの端に立つとやってくる電車が見えた。
僕は今一度、天を見上げる。雨が目に入ってきた。
そして、向こうに手を振って、線路に飛び込んだ。
衝撃が走って、僕は死んだ。
俺は神様だ。
訂正、神様だった。
天界で必死に働いていたのに、ある日突然リストラにあっちまった。
何でもお偉いさんが買収だかなんだかで入れ替わったらしい。
捨てられた神なんざ消えるか、人間に堕ちるかしか生きる道はねぇ。
俺はどっちも御免だ。
途方に暮れて虚無を彷徨っていた時、ある話を聞いた。
新しい天界のトップ、管理者は世界の管理体制を一新し、九つの大きな世界以外の放棄したらしい。
放棄された世界の中にはまだ文明のある地域もある。そこで神、管理者になり、世界を再建できれば俺にもまだ生きる道はあるんじゃないのか?
そう思い立ったが吉日、おれは早速取り掛かった。
と、その前にだ。俺の手足となる僕を転生"サルベージ"しなければなるまい。
神様には一人につき2度まで死んだ人間を冥海より"
俺は世界の最下層である"冥海"という終わった万物の行きつく場所へ向かった。赤い砂に漆黒の水が静かにあるだけの寂しい浜辺。ここは神々にも管理できない。なんでも在るが何も意味のなさない場所なのだ。
少し懐かしさを感じながら俺は釣竿を取り出して針を投げた。
暫くして当たりが来て釣り上げると人間の少年を引き上げた。
「ゲホッ、ゲボッ!?」
「大丈夫か?」
全裸の少年に俺は歩み寄り口についた針を抜いた。
「痛っ…こ、ここは?」
「あえて言うならあの世だな」
「あの世…僕は死んだ?」
「正確には死んで、俺が生まれ変わらせたのさ」
「あ、あなたは?」
「俺か?俺は神様だッ!」
「あなたが…」
「おい、待てなんだその残念そうな顔は。俺が神様である事がそんなに嫌だったのか!?」
「はい」
「チクショウ!初対面の小僧にそんな事言われても、反論できないのが悔しい!」
「反論できない?」
「…実はな、先日神様をクビになったのだよ」
少年が笑い出した。ツボにはまったらしい。
「か、神様って役職かなんかなんですか?それにしてもクビって」
「まぁそんな所だ。だがまだ決まったわけじゃない」
「?」
「とりあえず立て。死んで間もないから立ち方忘れてないだろう?」
俺のさし伸ばした手を少年は掴み立ち上がった。
赤い浜辺に二人で並び立ちながら天を見上げる。真っ暗な星空に一つ浮かぶ物体があった。
「あれ、見えるか?」
「空に浮かぶ島?」
「そう、あれが"ハイム"だ」
"ハイム"…放棄された世界の内、唯一文明のある世界。
三つの大陸、十五の国々が存在し何億人もの人々が暮らす平らな世界。
あの世界がこの"冥海"に落ちた瞬間、この命たちは全員滅亡する。
「俺はあの世界を救い神になる。だがその為に君の力が必要なんだ」
「僕のですか?」
「あぁ!俺は神様だが、蘇生術しか使えなくてね。あとは何をやっても駄目だ」
「なら、僕じゃなくて他の人にしてください」
「あっちょ、待って、海に戻られたら困る!君にはやり残した事はあるかい!」
「ないです」
「何でもいい、夢とかあったはずだ」
「ありません」
「お願いだ、戻らないでくれ!俺はまだ消えたくない!神様は死んだら忘れられてしまうんだ。誰にも気づかれずに!」
少年は足を止めた。
「君もそう思うだろ?せっかく生きてるのに無かった事にされるんだぜ。悔しいだろ」
「それは、悔しいです…」
少年は再び俺の所へ戻って来た。
「何をすればいいんですか?」
永遠に凪であるはずの冥海に風が吹いて少年の短く白銀色の髪を靡かせた。髪の隙間から瞳を覗かせた。その眼は真っすぐこちらを見ていた。
「君、名前は?」
「コウタ…」
「コウタか。俺はトキヤ。やり直すんだ。二人で。手始めにあの世界を救うんだ」
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