まぼろしの花
まきや
第1話 旅の僧
深夜、美しい満月の夜だった。
あるひとりの僧が、村の外れの細い道を歩いていた。
こんな真夜中に移動する旅人は
僧の懐には貴重な品物があった。自宗の大僧正が
川にかかる橋を渡ると、森に続く道が見えた。同時に遠くで山犬の遠吠えが聞こえた。
僧の足はぴたりと止まった。
ここまでの道中、あたりはずっと畑で視界は十分ひらけていた。だから安全だろうと夜でも歩いてきた。
しかしここから先は暗い森に入る。藪の中に獣や盗賊が潜んでいてもおかしくない。
食い殺されるのも薬を奪い取られるのも、どちらも望みではない。とはいえ森を迂回すれば、旅は確実に遅れてしまう。
僧は空を見て星の配置を調べた。あと数時間待てば空が白み始める。ならばどこかで夜明けを待つのが無難というものだ。
僧が川に沿って歩いて行くと、小さな池にたどり着いた。
水辺には草が生い茂っていた。人に踏み荒らされた様子はない。池の中は自生する
ここならば誰も来るまい。僧は座りやすい石を見つけ、腰を下ろそうとした。
「こんばんは、お坊さま」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます