初めまして、結婚してください

シュタ・カリーナ

第1話


「初めまして、結婚してください」

「……は?」


 放課後、人気のない校舎の片隅に、何を言われたのか分からないとでも言った顔をした一人の女子高生がいた。私だ。

 自分自身の評価は決して高いと言えるものではなく、ザ・平均だと思っている。高校生になって二年、当然告白されたことなどないし恋愛のれの字もない高校生活を送っていた。男子とは他の女子も交えてよく遊んでいるが所詮は友達止まりだった。

 そんな中、手紙で人気のない場所に呼び出された。なんだろうか、もしかして告白とかだろうかとか考えながらドキドキしながら待っていると一人の男子が来た。私は彼とは会ったことがない、もちろん彼の名前も知らない。そもそも同じクラスの人ではない。ということはただ通りかかっただけか、そう思っていた時に冒頭の言葉を言われた。

 私は困惑した。人生で一番困惑した時はいつですかと聞かれたら、この時ですと即答するぐらいに困惑していた。


(え、この人、結婚してくださいって言ったの!? 嘘、初対面だよ!?)


 普通告白といえば「付き合ってください」が当たり前だろう、というかそれ以外にない。それなのにいきなり結婚ときた。私は考える。必死に考える。そして、ようやく一言発する。


「あの、呼び出す人間違えてますよ」


 ようやく発した言葉がそれだった。というか

それ以外に考えられなかったのもある。

 しかし彼は間違えていないと返す。


「あなたで間違い無いです、文野たまきさん」


 間違ってはいなかったようだ。

 そして私は余計に混乱する。


(ということはこの人は私と結婚したいってこと!? いきなりそんな話になる!?)


 そんな時、私の頭にある一つの可能性が思い浮かぶ。


(……罰ゲーム)


 そう罰ゲーム、罰ゲームなら初対面で結婚してくださいと言ってもおかしくはない。私アッタマ良いっ。


「どうして私となんですか?」


 しかし「罰ゲームはやめてください」と切り捨てるのはつまらないのでとりあえずどうして? と聞いてみることにする。罰ゲームならどうせ答えられないだろうと考えてだ。


「あなたが俺の理想の女性だからです! カップルの理想の身長差は15センチ、つまり階段一段分。先日階段ですれ違う時に確認しましたが階段一段分の身長差がありました! そして! あなたのその可愛らしい顔立ち、その艶やかな髪、その仕草、その声! あなたの全てが中学生の頃より抱いてきた俺の理想……ということで俺と結婚してくれませんか」

「えぇ」


 意味がわからなかった。……もう、本当に。


「じゃ、じゃあまずは付き合うことから始めますか?」

「普通そうでしょうよ」

「すみません」


 素直に謝る彼。私は彼を視る。


(顔はまあ、悪くない。それにぱっと見優しそうだし……ふむ、悪くはない。むしろ優良物件では? 結婚は早すぎるけど……)


「なら一ヶ月お試しででもいいなら付き合っても良いですよ」

「ほんとですか!!」

「ええ、その間にちゃんとお付き合いをするか考えます。とりあえずはお試しということで」

「はい! よろしくお願いします!」


 お試しだ。それで無理だったら話はなかったことにしよう。


 この日、私にお試し彼氏ができた。


 ◇◇◇


 俺は程々にモテた。年に四回告白されるぐらいにはモテた。しかし全て断った。俺の理想じゃなかったからだ。俺の理想は高い。だからきっと理想に出会えずに生きていくのだろうと考えていた、あの時までは。

 高校生になって二年が経った。高校生になってもたまに告白されるが理想の女性ではない。やはり理想は所詮理想だったか、と俺は理想を諦めて普通に良さげな人とでも付き合ってみるかなと思っていた時に、廊下で一人の少女とすれ違った。たった一瞬のことだった。彼女は女友達と話していてこちらは見ていなかった。だけど彼女こそが俺の理想だと直観的に感じる。

 それから俺はその直観が正しいのか彼女をよく見た。ストーカー紛いだったが仕方ないと割り切って観察した。

 顔、髪、声、身長、どれもが俺の理想そのものだった。俺は彼女と会うために生まれてきたのかもしれない。

 そう思ったら即告白だ。


 結果は結婚は無理だがまずはお試しで付き合うことに。

 確かに結婚は性急過ぎたか。だが俺はようやく理想と付き合うことができる。


 俺の青春はこれからだ。

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初めまして、結婚してください シュタ・カリーナ @ShutaCarina

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