デートに行こう!
第1話 水族館へ行こう! 上
唐突だが、好きな人がいるってとても面白いことだなと思う。愛が正義とされる理由がわかる気がする。
さて、現在俺は自宅リビングのソファの上でゴロゴロとしているのだが、普段は虚無の気持ちで怠けるのに、今はついつい桜木の事ばかり考えてしまう。
あの日の紅潮する頬とふっくらした唇の感触が忘れられずにいるのだ。
あぁ、刺激が強すぎるよ、まったく。
ところが、夏休みに入ってすぐの花火大会のデート以来、俺と彼女は一度も会っていない。時たまチャットを交わす程度で、勇気が出せずデートに誘えないのである。
「……これはよくない。俺がもっとエスコートしないと!」
と、俺は腹筋に力を入れて起き上がる。
「うるさーい!」
「すまーん!」
隣の部屋にいた姉貴に、俺の意気込みを邪魔されたが、とにかく善は急げ。スマホでデートスポットを検索する。
ふむふむ、色々あるようだ。彩り綺麗な美術館、暗くて雰囲気のある水族館、緑豊かな公園などなど。俺はそれらに一通り目を通すと、勇気を振り絞って
いしみーや『なあ、来週の月曜日空いてるか?』
と送る。すぐに既読が付いた。
まいか『空いてるよー笑』
いしみーや『デート、行きたい』
「あーぬぬぬぬぬぬ!!!! 恥ずッ、恥ずッ、恥ずッ! 恥ずかしさで沸騰しそうだーーーーッ!!!」
「だからうるさいんだってば! アタシ勉強中なのよ!」
そんな悶絶をする俺と怒る姉貴を側に通知オンがピコンと鳴る。俺はスマホに飛びつく。
まいか『いいね!行こう٩( ᐛ )و』
まいか『どこ行きたいの???』
いしみーや『水族館なんてどうだ?』
いしみーや『文山本郷の水族館』
まいか『いいね!(๑˃̵ᴗ˂̵)ノ』
そんなやりとりをして、ついに俺は彼女をデートに誘うことができた。勇気を出せばなんとかなるものだ。
まだデート当日の予定すら立っていないのに、『やはり俺が主人公だったのか……』と悦に浸るのだった。
♢
デート当日の朝。
俺は身だしなみに悩み苦戦していた。
髪型はあえていつも通りにしておくとして、服は何を着れば良いんだ?
「なあ、姉貴。オシャレしたいんだが、どんな服なら良いかな?」
ちょうど歯ブラシを咥えた姉貴が現れたので聞く。
「えー、何でも良いじゃん。何? デート?」
「ほっとけ。遊びに行くだけだよ」
俺はいつも通りのラフな格好で行く事にした。
それから小一時間後。
前回と同じように文神豪馬の銅像の前で、俺は待ち合わせる。
腕時計に目をやれば集合の二十分前。
……さすがに早すぎたな。
と我ながら呆れるのだが、
「おーい、いーしーみーや!」
と向こうから手を振ってくる女の子がいる。
それは桜木舞花だった。黒いシャツにベージュのロングスカートを履いている。靴は足の見えるハイヒールで、腕には小さな銀色とピンクの時計がしてあり、爪は綺麗に磨かれていた。
なんとなく普段より大人っぽく見えた。
「なんでそんなに早いんだよ」
と彼女は肘打ちをしてくる。くすぐったい。
しかしまあ、口を開けばいつも通りの桜木舞花だ、と俺は安心する。
「お前こそ、なんでそんなに早いんだよ」
「私は前回石宮を待たせたから、その埋め合わせだよ。でもそんなに早く来られたら、意味ないじゃん」
「そっか、悪い悪い……」
「あ、もしかして、私と会うのが楽しみだったから早く来ちゃったの? えへへ〜」
また肘で腹脇をつついてくる。くすぐったいんだってば……
俺は恥ずかしさを紛らわす為に一つ咳払いをして
「今日の服装、かわいいな」
あー! 違うぅ! 言いたいのと違うぅ!
しかしこのセリフが意外だったのか、彼女も頰を赤らめ
「や、やめろし……」
と大人しくなる。
ああ、やりにくい……誰か助けてくれ!
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