9,旅のメイン オープンマイクで歌う 2日目
22時過ぎだったか。シュガー・バーの前で立ち止まる。なんだかもう、心臓がドキドキしていた。
ひとり、夜のニューヨーク。晴れときどき曇り。
これから見知らぬ人たちの前で歌う。それは初めてじゃないのに、やっちまえ!って気持ちと、無理怖いって気持ちに挟まれながらお店のドアを開ける。受付のお姉ちゃんにオープンマイクに参加したい、と言ったら「歌うときはそのセーター脱いでね」と言われた。この時はまだ意味がわかってなかった。
店のリストに名前を書いてソワソワ。もう音楽が鳴っていた。小さなステージには黒いドレスの女性とサックスのお兄さんがいた。
私は一人でどうしようもなく、とりあえずトイレにこもってしまった。ここで誰かに話しかけてドリンクでも飲めよ、と当時の自分に言いたい。英語勉強したんだからさ。
すると、名前を呼ばれたので慌ててステージに。簡単に挨拶をして、プレイヤーさんに曲名を告げるが、MCさんに「嬢ちゃん、セーター着たままだぜ? いいのか?」と言われた。
しかし頭の中はそれどころじゃなく、そのまま歌ってしまった。アデルのローリング・インザ・ディープ。イントロが鳴る。みんなこっちを見ている。曲が鳴ったらこっちのもんだ。息を吸った。
楽器と合わせて歌っていると、突然、音が増えた気がした。サビに入ったところだった。目が覚めたような感覚になった。よく聴いてみたら客席から聴こえてきていた。
なんとまぁ、サビに入ったところでお客さんが歌い出していた。ハモりの音を楽しそうに歌ってくれていた。一人ふたりじゃなくて、たくさんの人が一緒に歌ってくれていた。
すごく嬉しかった。歌ってる間だけ、心細く無くなった。音楽ってやっぱ楽しいよねって、この時は思えた。だって、日本だとお客さん腕組んで座ってるのがほとんどなんだもの(まじめにちゃんと聴かなきゃって思っている人が多い印象)。
すごく嬉しかった。歌い終わって、私はようやく笑顔になった気がする。
プレイヤーさんとお客さんにお礼を言ったところで、疲れがどっとでた。カウンターの前に行ったら、飲んでたお兄ちゃんが「一杯どう?」と行ってくれたけど、23時にひとりでNYという状況にビビり、「ごめん帰るわ」と行って店を後にした。
私、バーに来たのに緊張のあまりドリンクを飲まなかった。
ホテルへ歩いて帰る途中で、セーターを脱ぐ理由を考えた。たぶん、人前に立つのにドレスアップしてこいってことなんじゃないかと思った。オープンマイクとはいえ、パフォーマンスするんだからさ。自分のライブの時も衣装考えるじゃん。
って考えてた。
ホテルについてから、シャワーを浴びてベッドに腰掛けると涙がでてきた。
疲れてたのと、何しにきたのか分からないのと、緊張して満足に歌えなかった悔しさで泣いた。ベッドに腰掛けてずっと泣いてた。疲れて寝た。
明日も予定あるけど、昼まで起きなかった。
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