田舎貴族の流儀 ~魔法使いの田舎貴族が、平民クラスを立て直すようですよ!~
帝国城摂政
第1話 入学試験の時間
魔法とは、実力社会だ。
強い奴が、優れた奴が、賢い奴が、
実に合理的で、分かりやすく、そして単純だ。
だが、世界はそう単純ではない。
魔法とは実力社会だ、それと同時に貴族社会でもある。
なにせ、貴族は魔法が上手い奴をその家の血として取り込み、それと同時に幼い頃から魔法のトレーニングをしているんだからな。
平民なんかよりも、スタート位置が遥かに前なのは言うまでもない。
だから、貴族が強くなるのは分かる。
貴族の地位が高いほど、強いってのも分かる。
「私は王族! 故に、私は誰よりも偉い!
それ故に、お前は私に無様に敗北するのだ! これは王子からの命令なるぞ!」
「いや、本当に意味不明なんだけど」
俺は目の前の相手を、いささか憐れみを持って見ていた。
腕から血を流しながらも、絶対に許さないと睨みつけてくる相手----。
そう、この国の王子様に。
「許さんっ! 許さんぞっ! たかが芋臭い田舎男爵ごときが、この私に傷をつけるだなんてっ! 男爵風情は一生、這いつくばってろ!」
「いや、魔法のテストなんだからしょうがないでしょ」
ちなみに、今、どういう状況かと言われれば、魔法学校の入学試験の真っ最中。
実力主義の、この王国唯一の魔法を学ぶための学校で、俺はそこに入学するために普通に戦っている。
俺は、男爵の三男坊。
一方、お相手様は天下の、第一王子様。
第一王子様は貴族第一主義の精神の元、俺に完封すると宣言して、魔法を唱える。
まぁ、《魔法の実力=貴族の地位》みたいな風潮もあるからなぁ。
----だから、全力で捻りつぶした。
念入りに、端正な気持ちを込めて、それでいて遊び心も入れて。
俺の今の魔法の実力が、このアホと噂の第一王子様よりも優れている、それを証明しただけの事。
「あんたが弱いからいけないんだ。この学校は実力主義なんでしょ? 強かったら文句を言われないじゃん」
「うるさいっ! 王族に手を向けること自体が、歯向かうこと自体がいけない事なのだ!」
だったら、試験相手として出ないでくださいよ。
こっちがいくら真剣に取り組んでも、傷つけずに、そもそも魔法をそちらに向けないで戦えなんて無茶すぎる要求だ。
審判役の先生も、呆れてものが言えないみたいだぞ?
「ほら、さっさと負けを認めてくださいよ。あんたの怪我、見た目こそ派手だけど、全然傷ついてないでしょ。回復魔法で一発でしょ」
「うるさいっ! これは王族の、王子としてのプライドの問題だっ!」
血を流す中、ぎゃーぎゃー騒ぐのが、王子のプライド?
うわぁ、ダサいなぁ~。
「喰らえ、火属性上級魔法【
そうこうしているうちに、王子様が魔法で攻撃。
彼の足元には魔法構築用の魔方陣が生まれ、それと共に彼の目の前に大きな炎の槍が生み出されて飛んでくる。
目の前の空間を"通る"ではなく、"燃やす"ことをしながら向かってくる、巨大なる神が持ったとされる炎槍。
威力は十分。
魔法構築の正確さと、発射された槍自体の速度、そして込められた魔力量----その全てが高水準。
流石は、生まれた時から勝ち組確定の王族様。
並の貴族では手が出せなかったであろう大魔法使いやら大賢者の血が、このアホな子孫に【才能】と言う形で注がれているのだろう。
「ほいっと、"逆算"」
----だが、"それだけ"だ。
俺がパチンッと指を鳴らすと、その音を合図に目の前の炎槍が消えていく。
難しい事ではない、ただ魔法として存在できなくしただけ。
「なっ----! 私の、最高の魔法がっ! 防ぐのではなく、消しただとっ!?」
なにを驚いている?
これは魔法を用いての、相手を叩きのめす形での実力テストだぞ?
実力テスト、つまりは実戦を想定した魔法を使っての戦闘訓練。
相手を叩きのめすために、相手の魔法を逆算して無効化するだなんて当然。
俺の故郷では、子供でも知ってるくらい、普通の事だぞ?
「と言うか、こーんなことで驚いているようじゃあ、やっぱり魔法学校も大したことがないな。
ほれ、それじゃあこちらは、火属性最弱魔法【
さっきの炎槍と違い、こちらが出したのは今にも消えそうな淡い光。
洞窟を照らすだけの、ただの照明用の魔道具程度の魔法だし、このくらいが関の山だろう。
俺が出したそんな淡い光は、ゆらゆらと揺れ動きながら、アホ王子にぶつかる。
「……!? ウグワーッ!」
アホ王子は間抜けな声と共に吹っ飛ばされ、そのまま試合会場の外まで吹っ飛んでいく。
王子の取り巻き達が心配しているようだが、安心しろ。
派手なだけで、実際はその前に魔法で勢いを殺している。
精々が、降り積もった雪に向かって倒れたくらいだから、そこまで痛くもなかろうて。
「しょ、勝者! グリンズ・ベルクマン!」
ふっ、勝ったな。
これで、この国で一番才能が高いとされる王子を倒したんだ。
「あの王子が《男爵風情は一生、這いつくばってろ》とか言ってたけど、これでどちらが上かはっきりするだろうよ」
この魔法学校の校則では、"貴族の地位での区別はせず、完全なる実力のみで評価する"とある。
それならば、いつもはアホだけど倒しちゃいけない王子様なんかも堂々とやっつける事が出来る。
実力主義な魔法学校、万歳だ。
そして、どうやら周りの感じを見る限り、あの王子は強いのだろう。
あの王子があんなお粗末な槍の魔法で、みんな、驚いていたからな。
それを容易く倒す俺、つまりは俺の実力は凄いって事だ!
魔法学校が真に実力社会の学校なら、最高級のクラスで、優雅にのんびりと過ごせるっ!
いやぁ~、魔法学校、マジさまさまっ!
「配属を発表するっ!
男爵子息グリンズ・ベルクマンは、最低クラスの平民クラスに配属決定!」
----訂正、やはり世の中はクソである。
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【Tips】貴族と魔法
魔法の能力が高い事は、貴族の地位が高い事と直結する風潮があるため、地位が高い貴族は魔法の才能が高い者を自分の家に入れようとする
そのため、同じ家の兄妹が結婚したり、時には魔力が高い女性を複数人で扱ったりと、かなり酷い扱いをしていたりする
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