黙って俺に落とされろ

夢咲 有栖

第1話 イケメンの苦労話

 毎日まいにち大樹くん大樹くんって、いい加減しつこい。

「......大樹くん、今日も格好いいわ」

「あんなイケメンくんと話せるなんて、夢のまた夢だよ」

「大樹くんを産んでくれた両親に感謝したいくらい」

 今日も俺の通う「東京電機大学」では俺を持て囃やす声が絶えない。

 自分で言うのもあれだが、スタイルもそこそこだし顔もそこらの奴らよりかは良い方だと思っている。出来るだけ目立たないように生きてきた俺にとって女たちから注目を浴びるのはかなり厄介なことだし、加えて自分の容姿が邪魔でしかなかった。

「なあ、大樹もいい加減女の子たちの気持ちに応えてあげなよ」

 俺にうざったい言葉をかけてくるのは、昔からの友人である晴樹。こいつも顔だけはいいのに。何故女は晴樹ではなく俺に群がるのだろう。毎度のことながら、視線の向かう先が晴樹だったらいいのにと思ってしまう。

「うるせえな。俺には恋愛とか本当にどうでもいい。だからあいつらはただ騒音撒き散らす猿だよ」

「まったく、大樹は何歳になっても辛辣だな」

 はははっと、男子にしては高い声で笑う。

「俺も大樹だったらよかったのになあ。毎日女の子に付きまとわれるとか男の夢だぜ?」

「お前、どこまでも呑気だな。実際そうされる立場になったら面倒くさくて仕方ない」

「ふーん」

 晴樹はどこか納得のいかない様子で、売店で買ってきたスナック菓子を食べる。


「見て! あの人が大樹くんだよ!」

 またこれだよ。休み時間になれば必ずといっていいほど俺のクラスに女が寄って集る。そんなうるさくしていたら、周りの奴らにも迷惑だろうが。少しは場を弁えてほしい。

「そうだよ! こいつが高橋大樹でーす!」

 キャー! と割れんばかりの黄色い歓声が響き渡る。晴樹は俺を指差し、女たちに向かって大きく手を振っている。本気でやめてほしい。

「なあ。本当にやめてくんない?」

 俺の必死の訴えも晴樹には届かない。お調子者の晴樹は、女たちからの視線を総なめしたいらしい。俺も心底そうしてもらいたい。代わりに俺が楽になりたい。だがしかし、恋愛とはそううまくいくものではない。

 終いには、晴樹自らがその女たちの元で話を始めてしまった。


「はあ......」

 溜め息を吐くと幸せが逃げるとかいわれている。だったら、もう既に数十回は溜め息を吐いた俺からはたくさんの幸せが逃げていっていることになるな。

 はあ......

 出来ることなら、俺一人でひっそりと過ごしていたいんだよな。

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