日常に潜むどんでん返し

桜乃 ソラ

第1話 バレてはいけない

俺は今、耳をよくすませている。人の声、足音を聞き逃さないために。

 

今いるのは2階。とある理由でこの建物にはよく来るのだが、ここはその中で唯一人目につかないところであり、隠れることができる場所である。


かと言って、絶対に安全というわけでもない。それに耳だけに神経を集中させるわけにはいかない。目もしっかり使うのだ。


ヤツらが一階にいるときはいいが、階段を上がってきたり、この場所に近づいてきたりすると危険だ。

すぐに対処できるように。

耳をすませ。

足音を、聞き分けろ---




トッ、トッ、トッ・・・・・・


あっ、誰かが来た。階段を上る足音。

このゆっくりとして、でもしっかりと質量がある響きは--あの大人の女性の音だ。


やばい。


すぐさま俺は準備に入る。床に伏せていた身体を起こして座り直し、定位置にスタンバイ。


ここまでにまだ二秒もたっていない。もちろん足音の主は部屋にたどり着いていない。

完璧だ。



そして約一秒後。ガチャッと扉を開く音がした。


「あらユウヤ、ちゃんと勉強してるのね。いつきても机に向かっていて偉いわ」

「今日はもう宿題が(学校でやって)終わったからね。明日の予習だよ」

「そう。邪魔して悪かったわね。頑張って」


大人の女性、母が去っていく。



---デイリーミッション完了。


今日はもう来ないだろうと、俺は安心してマンガの続きを読み始めた。


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