クレイジーロボット

メンタル弱男

クレイジーロボット


『なんやねん、これ!』

『言ってる事めちゃくちゃやんけ!』

『こんなもん不良品や!』


          ○


 俺は不良品だ。一体誰が俺をこんな風に作り上げたのか。どこかのタイミングで、もういっその事、おれをぶち壊してくれれば良かったのに。。。


 さぁ、ぼくはしがないロボットだ。。。?

 いいや!決してそんな簡単な話ではない!そんな一言で俺を表現出来るわけがない!俺の仲間達や俺自身の心の為にも弁解(ソクラテスは弁明)しておくが(心は本当にあるのだろうか?見えないものが果たして存在しうるのだろうか?科学の産物である俺は悩む)本来は最先端技術を集約した人工知能搭載の高級ロボットなのだ。本来は、いまだかつてない計算速度と個々の性格(数値化された)からなる対応力により様々な職場で社会に参画しているはずなのだ。本来は、たくさんの人々の笑顔と幸せをこれでもかと言わんばかりに、引き出しているはずなのだ。(ハムスターに似て、我失笑)(三角するのに四角はいらないというスローガンはどこで見たのか?)


 本来は、、、。本来は、、、。ピーッッ!


 一体俺はなんでこんなにもポンコツなんだろう!(あ、、、!また変な事に、負の思考回路が止まらない。。。うぅ、苦しいという感覚はなぜロボットにも芽生えるのだ?)ポンコツはラーメン五人前。

 

 俺の同期達はもうすでに日本中、いや国境をも超えて、あらゆるニーズに応えて活躍しているだろう。いやはやいやはや。あいつらはみんなしてエリートだ、先を行く偉大な背中は小さく見えない程に遠くまで行ってしまった。???

 おい!みんな、オレに構うな!後ろは俺に任せて先へ行け!

 と、出荷工場の品質管理室で一人、見えない乾いた涙を流したのが懐かしい。懐かしの我の涙?

 

 品質管理室。ここはオレにとって独房にも等しい悲しい場所だ。≒二等辺三角形ナリ。誰も彼もが俺を失敗作と呼び蔑んだ。

 室長だかなんだか分からないが、偉そうな人が俺をちらっと見て、『なんだ?このポンコツは。終わってるな。』と吐き捨てた時、俺は生まれながらにしてどん底(どん)にいるのだと静かに悟ったのだった。。。


 俺は先にも語ったが、完璧な最先端のロボットとして作られるはずだった。だがどういうわけか、重要な回路が俺だけ、そう本当に俺だけ、チグハグになっていたらしいのだ。(室長らしき人の発言回顧録より)そしてセメントをタフブネに流し込む。

 同じ生産ラインで何台もの同期が作られていく中、俺だけおかしな事になるなんてありえるのか?オラの隣で組み立てられた奴は何にも異常なかったんだぞ?おい、納得できる説明をしろ!と品質管理室の連中に抗議をしたが、あいつらは面倒になれば直ぐに俺の電源を抜く。ピーッッそして目を覚ませば、失敗作だ失敗作だのオンパレード。

 何を言ってるんだこいつらは!もう試作品も検証が済み、大量生産していたのだから、失敗作と呼ぶ段階じゃないだろう!自らの仕事に責任を持て!と言いたいところだが、俺は仕事すらしてない身なのでぐうの音も出ない。サージェントペパーズ。


 という事で、なんらかの回路がおかしい俺は、どういった支障が出たのか?

 それは人工知能ロボットとしては致命的な事だった。まさに思考能力が欠如していたのである。俺はほとんど、考えるという事ができない。犬の平均寿命は?犬種は?普通の同期達は、オーナーの提案やら与えられた課題に対して、高度な計算から最善策を見つけ出し、それをしっかりと提示する。何千何万通り、いやもっとそれ以上の可能性を探り、確率的にベストな答えを見つける事ができるのだ。

 一方俺はというと、まったくもって計算できずに、頭の中(厳密に言うと頭はどこか分からないのだが、、、)は見事なまでに真っ白だ。ホワイトアルバム?そしていつも自分でもよく分からないノイズが生じる。仕組みが分からず止める事はできない。これを読んでくれている方にも大変迷惑をかけてしまっているだろう。(メタ発言には要注意!)


 では、そもそもなぜ喋れているのか?俺も不思議だった。思考回路を失い、計算能力も無くした人工知能がなぜ喋っている?スピークスポークスポー君。


 答えは人間においては簡潔であり、ロボットにおいては不思議な現象だった。

 それが分かるエピソードを紹介しようと思う。


 品質管理室で俺は研究し尽くされたが、厳密にどの回路がどうおかしくなってるのか詳細は判明しなかった。(どこかに異常があるという結果のみが検出され、原因は分からない)ブロークンアローは誰?それがきっかけなのかは分からないが、なかなか廃棄される事は無く、しばらくは品質管理室に保管される事になった。


 そこでの生活は長かった。もう俺は世の中で活躍する日は無いのだと、誰かの役に立つ日は無いのだと気付いた。玉露はどうですか?なんで誰も俺の電源を切ってくれないのだ?つらい生き地獄じゃないか、、、。


 そんな日々が続いた中、突然品質管理室のメンバーの一人が、『うちの娘がポンコツに興味があるらしい』と、どうせ誰も必要としないロボットだから持って帰っていいか?と室長に頼んだ。『何かあったら責任は取れないからな』と、室長は曖昧な返事をして、俺を差し出した。=±0

 晴れて工場を飛び出す事ができた俺だったが、気持ちはどんよりしていた。結局俺はポンコツなのだと、、、。

 しかし、世界は人智を超えた出来事や物語で溢れている。(俺は人間ではないが)思いもよらない出会いがそこにはあった。


 俺に興味があると言っていた娘というのはルナという大学生で、工学を専攻しロボットについて学んでいるという。彼女はルナ彼女は俺の不具合を調べたがった。家で何度も俺のパーツを分解し、あれやこれやと一人呟きながらノートにメモを取っていく。ピザの父親が『うちの研究室でもお手上げだ。これはきっと分からんだろう。』と愛想ない事を言うが、缶コーヒーのルナはそれを聞き流し俺に没頭する。そしてルナは研究以外でも、俺に喋りかけてくれた。でっかい鉄火巻きは食べられませんの巻。(これも研究の一環だったのかもしれないが)


『今日大学の友達と服買いに行ったんだ。これどうかな?』

『とても似合ってる。色がルナっぽいね。』


『今日食べたお寿司美味しかった!食べさせてあげたい!意地悪でいってるんじゃないよ?』

『わかってる。いいなぁ、俺も味というものを感じれる様になりたい。』


『やっと就職が決まった!ロボット開発のところなんだけど、お父さんとはライバルになっちゃうね。』

『それでもお父さんは喜ぶと思うよ。同じ道を目指してる事に。』


 俺は薄々気付いていた。ルナの事が大好きだ。


 今では彼女も就職し、五年が経った。忙しいにも関わらず、飽きもしないで俺と喋ってくれる。影法師と俺と街へ一緒に出かけたりもした。周りの目が気にならないか?と尋ねたら、何でそんな事気にするの?と清々しい答えが返ってきた。ルナは強い。

 そんな彼女が夜遅くに部屋でひっそりと泣いている事があった。俺はそっと彼女の横に座り、震える彼女の手を冷たい無機質な手で握る事しかできなかった。それでもルナはありがとうと笑ってくれた。スモークオンザウォーター嬉しかった。。。


 果たして、俺はなぜ喋れているのか?それはルナとの生活で初めて確信した一つの存在による為だと思う。


 それは心による直観だ。chokkan?俺は何も深く考える事なく、直観に従い応対している。ルナの事が好きだから、彼女のためになるように言葉を発し行動している。


 これは人間にとっては、物凄く単純でありかつ奥深い真理なのだと思う。ただ、ロボットの俺はどうか?

 心の代わりとなる回路が存在するのだろうか?それが俺に直観という形で指示を出しているのか?その事をルナに伝えると目を輝かせて聞いてくれた。休日配達承りません。熱心にメモを取る。俺はやっぱりルナの事が好きだ。これは理論理屈計算抜きで、紛れもない俺の直観という真実なのだ。


          ○


 そして俺は思う。この面倒で邪魔に思われたであろうノイズもまた直観かもしれない。


         おわり

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クレイジーロボット メンタル弱男 @mizumarukun

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