第11話 生徒会室でお悩み相談

改稿版を未読の方は新8話からご覧下さい。

新8~新10話にかけて、ストーリーの変更箇所があります。

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 気づけば、ひどく不可思議な状況になっていた。


 俺は優愛ゆあに大事な話があると伝え、決戦の日に備えてあれこれと悩んでいた。


 すると生徒会の如月きさらぎ唯花ゆいか先輩に捕まり、『めやすばこー!』なる謎のポストに承認されてしまった。


 如月先輩は黒髪のきれいな、すさまじいほどの美人である。

 その如月先輩が召喚したことによって、今度は――この学校で最も有名な男子生徒が現れた。


 三上みかみ奏太そうた生徒会長。

 今まさに優愛が目指す頂きにいる人物だ。


「じゃあ、とりあえず生徒会室にいくか。山盛りの菓子と紅茶があるんだ。フルセットでもてなすぞ?」


 ガシッと三上会長に肩を組まれた。

 ぴったり息の合ったタイミングで如月先輩が「一名様、生徒会室にごあんなーい♪」と先行して歩きだす。


 怒涛の勢いで話が進もうとしている。

 そこで俺ははっと気づいた。


 生徒会室はマズい。

 優愛は今、生徒会の手伝いをしている。

 

 今まさに如月先輩が開けた扉の向こうにいるのではないか。


 確かに俺は悩みを抱えているけれど、その内容は優愛本人にはまだ知られてはいけないものだ。


「あのっ、ちょっと俺はその……っ」

「まあまあ、何も取って食おうってわけじゃない。いいから来い来い」


 ズルズル引きずられていく。

 力が強い。ぜんぜん止まらない。


「安心しろ。秘密にしたいことがあるなら絶対誰にもしゃべらない。話を聞くのは俺と唯花だけだ」


「えっ、先輩たち二人だけ……ですか?」


「ああ。今、お前と同じ一年生で手伝いにきてくれてる奴がいるんだけどな、ちょうど今日は委員会の提出資料を回収しにまわってる。だから俺たちだけだ」


 だったら良い……のか?

 と迷ってるうちに結局、生徒会室に連行されてしまった。


 まず目に映ったのは部屋奥の執務机。

 壁際には書類が収まった本棚と、ティーセットの並んだ棚が置いてある。生徒会の役員用らしき机もいくつかあった。


 部屋の真ん中には来客用のソファーとテーブル。

 俺はそこに座らされ、向かいに三上会長が腰を下ろした。


「如月隊員、おもてなしセットを」

「かしこまりであります、隊長殿ー!」


 三上会長の指示で如月先輩がパタパタと棚の方へ駆けていく。

 いちいち仕草の可愛い人だった。


「さて、まずは自己紹介からいくか。俺は三上みかみ奏太そうた。この彩峰あやみね高校で生徒会長をやらせてもらってる」

「……知ってます。三上会長は有名人ですから」


 どうして俺は今こんなところにいるんだろう、と思いつつ、こっちも口を開く。


「……1年A組の森下もりした真広まひろです」

「よろしくな、森下」

「はぁ、よろしくお願いします……」


 俺は気の抜けた返事。

 一方、三上会長はまったく気にせず、笑みを向けてくる。


「生徒たちを一人残らず守るのが会長の役目だ。だから遠慮せずにどんと頼れ」

「……」


 一瞬、思考が止まりそうになった。

 やっぱりこの人は……優愛と同じ、強くて真っ直ぐなタイプの人間なのだろう。


 たぶん俺はこういう人に弱い。

 油断すると自然に惹かれてしまいそうになる。


「はい、どーぞー?」


 如月先輩がお盆を持ってきて、紅茶とお菓子を出してくれた。


 ……だけど、量がすごい。

 クッキーやチョコがエベレストのようになっていた。


「これからパーティーでも始まるんですか……?」

「ふふふ、生徒会室はエブリディがパーティーディだよ?」


 ドヤ顔の如月先輩。

 頭痛がしてきた気がして俺は首を振る。


「分かりません。すごく意味が分かりません……」

「まあ、食え食え。遠慮はいらないぞ。いくら食べても無限に湧いてくるからな」


 会長がチョコを取って、こっちに投げてくる。


「お菓子が無限に湧いてくる生徒会室って、一体……」

「さっき言った手伝いの一年生がしょっちゅう持ってくるんだよ」

「えっ」


 優愛が?

 なんで?


「なんか唯花とお茶をするのが楽しいらしくてな? 『唯花さんとのティータイムには最高の品を取り揃えたいですから』って言って、次々に茶葉やら高級菓子やらを持ってくるんだ」


「えへへー、後輩に慕われまくりなのです。あたしもゆーちゃんとお茶するの、すっごく楽しいよっ」


 ほにゃっと嬉しそうに笑う如月先輩。

 ゆーちゃんって言うのは……ああ、優愛のことか。


 一方、微妙にへこんだ顔をするのは三上会長。


「まあ、あいつ、なぜか俺にはあんまり懐いてくれてないんだけどな……」

「あー、奏太はよくゆーちゃんに怒られてるよね。今日はなんだったっけ?」


 三上会長の隣に座り、如月先輩は「んー?」と思い出すように宙を見る。


「あ、そだそだ」


 先輩曰く、今日の優愛は会長に対して『生徒を仲間扱いするのはいいですけど、書類の提出期限を適当に伸ばしてあげるのはダメでしょう!? それじゃ組織として成り立たないじゃないですか!』と言い、委員会の書類を回収しにいったらしい。


 その状況はなんだか目に浮かぶようだ。


 藤崎ふじさきグループの跡取りである優愛は、組織論を重んじる。

 一方、三上会長は信頼や好意で人を束ねる性格のようだ。


 その辺りでやり方に食い違いが生まれるのだろう。


 手伝いにきているだけなのに現役の生徒会長に噛みついている優愛もすごいけど、それをまったく邪見にせず、懐くか懐かないかの話として捉えている三上会長の器の大きさも大概だった。


 優愛がこの生徒会室でどんな時間を過ごしているか、少し見えた気がする。


 如月先輩には妹のように懐いて。

 三上会長にはライバル視をして対抗意識を燃やしているのだろう。


 なんとなく感慨深く思いつつ、さっき投げ渡されたチョコを食べてみる。

 甘い。とても甘い。クセになりそうだ。


 すると三上会長が紅茶を一口飲んで話を向けてきた。


「さて、森下が悩んでるのは学校内のことか?」

「……」


 逆に学校外のことでも相談に乗るつもりなんだろうか。

 ……うん、この人は平然と乗りそうな気がする。そんな気がした。


 しかし、この場をどうしよう。

 下手な話をして、優愛のここでの人間関係に水を差してはいけない。


 そうして口ごもっていると、三上会長が「ふむ」とカップを置いた。


「如月隊員、扉を施錠」

「合点承知!」

「は!?」


 跳ねるように入口に向かい、如月先輩がカチャンッと扉の鍵を閉める。

 直後、三上会長がニヤリと口の端をつり上げた。


「森下、観念しろ。ここから先、悩み事を話すまでお前は外には出られないぞ」

「な……!?」


 さすがに面食らった。


「か、監禁じゃないですか!?」

「問題ない。生徒会長権限だ」

「いや高校の会長にそんな権限あります!? ありませんよね!?」


「じゃあツレの権限ってことで。ほら、俺とお前の仲だろう?」

「いつからあなたと俺が友達になったんですか!? めちゃくちゃ初対面でしょう!?」


「この学校の奴は全員漏れなく俺の仲間だ。だからお前も俺の仲間で俺のダチ。入学した時から決まってんだよ」

「め、滅茶苦茶だ……っ」


 唖然とする俺へ、会長は兄貴分的な笑顔を向ける。


 押しの強さが半端じゃない。

 何が何でも世話を焼くという鉄の意思を感じる。


 監禁と言ってもただ内側から鍵を掛けただけ。

 その気になればすぐに出ることはできる。


 だけど。

 結局、なんのかんのと言われてまた捕まってしまう気がした。

 この会長からは逃げられる気がしない。


 どうしよう……。


 頭を抱えてため息。

 こうなったら……仕方ない。


 優愛のことだとは分からないように伏せて話し、どうにか解放してもらおう。


「……他言無用にしてくれますか」

「もちろんだ」

「約束するよっ」


 二人の頷きを聞き、頭を整理していく。


 確かに……自分ひとりで事を成すには限界があると思ってはいた。

 もしかしたら先輩たちが何か名案を教えてくれるかもしれない。


 どの辺りをボカしてしゃべればいいか考え、ゆっくりと口を開く。


「俺、好きな人がいるんです」

「ほう?」

「ほうほう!」


 自分が緊張しているのが分かった。


「もうすぐ彼女の誕生日で、その時に俺――」


 大きく深呼吸。

 背筋を伸ばし、拳を握り締めて告げる。


「――彼女にプロポーズしたいんです!」

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