新10話 突然ですが、三上会長を大召喚!

 現在の俺の状況。

 生徒会のよく分からないけどすごい人、如月きさらぎ唯花ゆいか先輩に捕まった。


 謎の勢いに完全にペースを握られていて、どうすればいいか、さっぱりわからない。


「ではでは、『めやすばこー!』に承認されたので、一年生クンの悩みを生徒会がじっくり聞いてあげるよ」


 段ボール製のポストのようなものを見せ、もはや決定事項のように言う如月先輩。


 このポストは『めやすばこー!』という名称で、一般生徒が生徒会に悩みを相談するための目安箱のようなもの……らしい。たぶん。


 ただ一つ問題がある。

 俺、一度も相談したいなんて言ってないんですが……。


「あの、如月先輩、申し訳ないんですけど、俺は……」

「というわけで、ウチの学校の生徒会長さんを召喚します!」


 問答無用だった。

 っていうか……。


「召喚、ですか?」

「そ、召喚」


「え、召喚?」

「うむ、召喚」


 大仰に頷く先輩。

 生徒会長って魔王か何かなのだろうか?


 ただ、実際どういう人なのかは、一年生の間にも一応聞こえてきてはいる。


 入学式の時に在校生代表の挨拶をしていたし、すでに部活に入っているクラスメートたちが先輩から聞いた話を教室でしていたりもした。


 生徒会長の名前は、三上みかみ奏太そうた先輩。

 如月先輩と同じ三年生で、会長就任前から校内ではかなりの有名人だったらしい。


 噂によると、人助けが趣味みたいなところがあって、入学時から色んな生徒を助けてまわり、ほとんどヒーロー扱いされているとか。


 ああ、そう考えると魔王よりも勇者みたいな人なのかもしれない。

 だからといって、おいそれと召喚されても困るのだけど。


 しかし如月先輩は止まらない。

 何やら呪文めいたものをつぶやき、突然、カッと両目を見開いた。


「石を使ってピックアップ大・召・喚! いでよ、星5の生徒会長ーっ!」


 どんな大魔術かと思いきや、俺でも知ってるようなソシャゲの召喚だった。


 テンションの上がった如月先輩は両手を勢いよく振り上げる。


 その途端である。

 『めやすばこー!』が宙を舞った。


「ああっ、三代目ーっ!?」


 愕然とする先輩。

 

 うん、なんだろう。

 そういえば『めやすばこー!』の初代はテンション高く放り投げちゃった、とかさっき先輩が歌ってた気がする。


 きっと初代もこういう感じで宙を舞ったのだろう。


 そして同じ道を辿った三代目も、ぽーんっと俺の頭の上を飛んでいく。

 ついついそれを目で追った。


 段ボール製のポストがくるくると回転しながら放物線を描いていく。

 天井近くまでいって弧を描き、そのまま床の方へと落下を開始。


 やがて無残にベコッと潰れてしまう……ところを想像したのだけど、そうはならなかった。


 新たに現れた人物が見事なタイミングでキャッチしたからだ。


「よっ、と。危ない危ない、危機一髪だな。力の初代、技の二代目、そのDNAを受け継いだV3な三代目なんだ、大事にしろよ?」


 その声を聞き、如月先輩が「三代目ーっ! 良かったぁ、ナイス召喚、奏太!」と駆け寄る。


 奏太。

 それは生徒会長の名前だ。


「いや召喚っていうか、俺、最初から一年生の後ろにいたんだけどな?」

「えっ」


 つい声がこぼれた。


 ぜんぜん気づかなかった。

 じゃあ如月先輩に振り回されているところをずっと見られていたんだろうか。


「よお、一年生」


 俺に向かって、気兼ねない挨拶。


 その手はポストを高く掲げていて、横で如月先輩が「返してー、もう投げないから返してー」とぴょんぴょん飛び跳ねている。何やら親密さが伝わってくる空気だった。


 この人が……三上会長。

 生徒会長を目指している優愛ゆあが見据えている場所に今現在、立っている人物。

 

 三上会長はブレザーを着ておらず、ネクタイも外していて、袖は腕まくりしていた。やや目つきが悪く、ぱっと見、不良っぽく見えなくもない。


 しかし不思議と威圧感のようなものはなかった。雰囲気が兄貴分っぽいことと、如月先輩に向ける眼差しがひどく優しいことが理由かもしれない。


「悩みごとがあるんだよな? ああ、誤魔化さなくていいぞ。唯花がそう言うってことはまず間違いない」


 如月先輩にポストを返し、三上会長が俺の肩をぽんっと叩く。

 そして力強い笑みが向けられた。


「良かったら話してみてくれ。召喚されたからには責任持って解決するぞ?」


 一瞬、虚を突かれた。


 揺るぎない自信。

 誰かに手を差し伸べることに迷いのない眼差し。


 その姿が優愛と同じ種類のものに見えたから。


 しかも三上会長の物腰には一年生にはない落ち着きがあり、優愛よりもさらに強者の風格があるように思えた。


 ごくり、と喉が鳴る。


 この人は……確かに優愛の目指す場所にいる人だ。

 そう感じた。

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