チョッカンの裏側

あぷちろ

第六感とは

 ピコン、と私の直観が告げる、避けろ!

「うわぉっち!」

「チッ」

 学校の放課後、教室を掃除している私に、いきなり訪れる不意の襲撃。それを華麗に回避する。

 小さく、背後から舌打ちが聞こえる。バケツを振りかぶった状態で制止する友が不機嫌そうな表情で私を睨みつけていた。

「え? マジでなんなん? なんでいっつもいっつも寸前で回避するん?」

「え? マジでなんなん? あんたイタズラ好きすぎへん?」

 私と友は笑い合った。幾度目かはわからない悪戯の失敗と回避の成功に呆れて。

私と友は、個体を指し示す語彙の通り、友人同士である。ともに学徒であり、同性であった。

「そのバケツなんなん?」

「上から被せたろかと」

 友の両手には綺麗に洗われた掃除用の青色バケツがある。きれいに洗ってあるあたり悪辣なのかそうでないのか、判断に苦しむものだ。いや、イタズラの頻度から、悪辣な部類だ。

「え、ヤバいやん。避けてよかったー」

 安堵の溜息を吐き、私はいつの間にか手元から離れていた箒を拾った。友も掃除用具のバケツをロッカーへ仕舞いながら会話を振る。

「真面目な話しさ、なんで分かるん」

 何故、イタズラを回避できる?

 主語を省いた友の疑問に、内部心情の言語があまり得意でない私はうんうんと頭を捻る。

「直観?」

「なんで疑問形なんよ」

 友の鋭いツッコミに私は顎に指をあてて深く考える。

「直観なんだろうけど、もっと具体的な感じでさ、頭の中に電気が点くっていうか、音が聞こえるっていうか……こう、『ピコン!』って」

 私の言を聞いた友は腹を抱えて笑った。

「頭の中で電気点くとかマンガやん」

「しかもLED」

「音ならんし!」

「そもそも電球は“ピコン”って音せんしな」

 一頻り笑いあった私たちは教室の掃除を終えて帰路につく。

 ホントウに、この直観は何なのだろう?



「三千百六十番、危機的状況の発生」

「了解、回避する」

「エマージェンシーコール“直観”発動。回避まで1、2、3、いま!」

「回避成功、通常動作に戻る」

「この母艦に配属希望したの、失敗したかなあ」

「だな、毎日殆ど『危機的状況』が発生している。対処する俺らの身にもなれってな」

「愚痴っても操縦権と思考権は俺らにはないんだけどな!」

「九千三十二番、危機的状況の発生」

「オイオイオイ、またかよ。本日五度目だぜ?」

「エマージェンシーコール“直観”発動」

「回避……成功。マジで、配属選択ミスったかもな」

「多いに同意はげど

「まあ、せめてもの救いは第六感報知所ここは外界の様子がまだわかるってとこだな」

「おっと、どうやら今日は友人と買い食いするらしいぞ! 今日はっと……ちくしょう、またファストフードか!」

「俺たちの食事もまたファストフードだな」

「俺、ここに配属されてからニキビと血糖値増えたんだよな」

「俺、医者から野菜食えって言われたぜ?」

「無理じゃんそんなの」

「だよなー」

「とりま、明日くらい配属願い出してみるか」

「あっ、ずりぃぞ! 俺も出す!」


――こうして今日も一日が終わる。願わくば、おれたちの配属が変わりますように。






おわり

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チョッカンの裏側 あぷちろ @aputiro

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