『文豪』

やましん(テンパー)

『文豪』


 『これは、フィクションである。しかし、意外と、近くにあるかもしれない。』



  

 文豪さんは、とある山奥の温泉旅館に隠っていた。


 都市部は、新型超宇宙ウィルスの蔓延で、当分、鎌蔵の自宅には、帰れそうではない。


 このウィルスに感染すると、インフルエンザに似た症状から始まるが、やがて、体が宙に浮くようになり、放置すると、二万メートル上空あたりまで飛んでいってしまう。


 そのさきは、一般には、判っていない。


 なんとかいう、特殊な飛行機で回収されてしまい、麦国の秘密研究所に収容されてしまうからである。


 しかし、最後は爆発して、ウィルスをばらまくのではないか、という推測がマスコミあたりから出ているが、専門家は一蹴している。


 でも、事実は、そこに、近かった。


 もっとも、まだ、治療薬も、ワクチンもない。


 既存の薬を、片っ端から試してみているが、うまくゆかない。


 と、まあ、オカルト的危機にあって、文豪さんは、ついに、人生最高の作品に取り組んでいたのである。


 ノー・ヘール賞は、すでに、受賞済みである。


 宿側も、たいへんである。


 宇宙飛行士みたいな服で、調理をおこなう。


 そもそも、食材も、絶対クリーン・工場で製造されるものだ。


 レタスいっこ、二万ドリム。


 鳥のモモ肉、100グラム一万ドリム。


 養殖されたさば、一匹、100万ドリム。

  

 お米に至っては、お茶碗一杯ぶんで、150

万ドリムである。(1ドリム=1円)


 民間人には、こうした、食材は高嶺の花で、『サイレント・スナック』という、固形食糧が配給されている。


 まずいが、栄養はある。


 一個食べたら、三日間は、ほかには、食糧も水も要らないのである。


         🍪


 仕事は、すべて、リモートなのだが、困ったことに、この、ウィルスは、本当にネット感染するのである。


 しかし、これは、ある天才により、特殊フィルターを通すことで、ウィルスがネットを避けて行くことがわかった。


 これを、人体に応用できないか、血みどろの研究が行われている。


 文豪の部屋に入るのも、同様の宇宙服で行う。


 想像してみて、頂きたい。


 なにしろ、すでに、地球には、文豪と呼ばれるひとは、この人くらいしか残っていないのだ。


 だから、彼女は、書き続けた。

 

 あの、『ファウスト』をも、超越する作品になった。


 彼女は、出版社に、送信し、それから、倒れ伏した。 



 そこまでは、判っている。


 しかし、その先は、謎のままだ。


 宇宙ウィルスは、劇的な変異を繰り返した。


 人類は、肉体を離脱し、ウィルスと同化した。


 まあ、だから、その結果、生まれたのは、幽霊さん、と言っても良い。


 本は、ほとんど、読まないのである。


 それでも、肉体を持っていた人類の研究をする、幽霊ウィルス学者は、いた。


 ネットが、動いていたら、まだ、手はあるのであるが…………


 しかし、ああ、さいごの、決め台詞が、なかなか、見つからないのである。



 早い話し、人類は、滅亡したのである。


 



 ・・・・・・・・・・・・・・

 


 

 


 


 


 


 

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『文豪』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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