『ラメン』庭園
チャックルズ、サラとカザン、アーシャにコノミ……。
五人が美味しそうにラメンを食べ始めると、すぐ場に変化が現れた。
子供連れの多くと後方の
ふむ、エルフの生誕祭と同じだな。
美味しいラメンがそこにあれば、あとは『きっかけ』次第で人は動く。
やがて小一時間が経ち、レンのヤタイの材料がなくなってしまう。おそらく彼は、六、七十杯程度の材料しか用意してなかったのだろう。
ジュリアンヌの列はまだまだ続いていて、彼女は息を切らして必死でメンを茹でている。
ダルゲとミヒャエルが懸命にサポートしているが、それでも少女の細腕ではキツそうだった。『無敵のチャーシュ亭』も人気店だから、一日に百杯ぐらい当然いつも出てるだろうが、こんな風に連続で作ったことはないはずだ。
「……はぁ、はぁ……あうっ」
ジュリアンヌの腕が震え、メンを落としそうになる。
レンがそれを見て、何かを渡した。
「ジュリアンヌ、こいつを使え。平ザルよりも湯切りがしやすいはずだ」
「……こ、これは?」
「テボザルだよ。語源は鉄砲ザル、短くしてテポザル、
「わ、わかりましたですわ……こうですわね!?」
「そうだ! がんばれ、ジュリアンヌ。俺が手を出すわけにはいかねえ。そいつは、お前のラーメンだからな!」
なお、二人の通訳はラメンを食べ終えたサラが行っている。
そして、ついにはジュリアンヌも連続100杯を作り終える。
ラメンにありつけなかった者も若干いたようだが……誰も文句など言わない!
そもそもレンとジュリアンヌは、百をはるかに超える数を提供したのだ。ラメンが食べたかったなら、ジュリアンヌの列が短いうちに並び直せばよかっただけである。
庭園にはそこかしこでラメンを食べる者であふれ、みなが楽しげに笑い合っていた。
ヘトヘトのジュリアンヌが、その光景をジッと見つめている。
それから、フフっと嬉しそうに笑った。
「……ねえ、お母様。みんな美味しそうにラメンを食べてますわ。まるで、あの頃みたいですわね」
彼女は疲れ切った身体をヨロヨロと持ち上げて立つと、声を張り上げた。
「お集まりの皆さまに、ご案内さしあげますわ! 『無敵のチャーシュ亭』は明日より、昼の間は庭園の門を開放し、出入りを自由にいたします! またランチに合わせて、庭で鴨ラメンを格安で提供いたしますので、どうぞご賞味くださいませですわ!」
彼女の言葉に、大きな歓声が上がる。
レンが言った。
「おおっ!? ずいぶん思い切ったな、ジュリアンヌ! だけど、いい考えだぜ。夜は高級店でやってる店も、昼は格安で提供して客を呼び込んでる。経営戦略としては、大正解だ!」
ジュリアンヌはフイっと顔を
「別に? ただ、あたくし急に、鴨ラメンの研究を本格的に進めたくなりましたの……自慢の豚チャーシュに負けないくらいの鴨スープを作りたくなったのですわ! それで、作ったスープを捨てるのはもったいないから、庶民の皆さまに恵んでさしあげようと思っただけですわよ」
「そうか。それじゃ、俺は帰るよ。そのテボザルはお前にやる。大量の注文をさばく時は、そっちのが向いてるぜ。じゃあな!」
レンが背を向けると、ジュリアンヌが慌てて引き留める。
「あ……レン! お待ちなさいですわ!」
「ん。なんだ? まだ用があるのか?」
ジュリアンヌは頬を赤らめ、モジモジしながら言いづらそうに尋ねる。
「えっと、そのぉ……。も、もっと美味しい鴨ラメンができたら……また、食べに来てくれますわよねっ?」
レンはニカッと白い歯を見せ、親指を立てて答えた。
「ああ、もちろんだ! 美味いラーメンがあるのなら、頼まれなくっても食べに来るぜ!」
そう言うとレンは、ヤタイを引いて歩き出した。そのすぐ後ろを、サラとカザンが追いかける。
ジュリアンヌは貰ったザルを胸に抱き、去り行くレンの姿を熱っぽい視線で見つめていた。
「イトー・レン……。絶対に、あたくしの
ふと視線を移すと、ナンシーも庭園を去ろうとしている。
私とオーリは急いで彼女の元へと行き、声を掛けた。
「ナンシー。今回は、君ばかりを悪者にしてしまったね。君が鴨ラメンを褒めた時、ようやく私も真意に気づいたよ」
ナンシーは、フンと鼻を鳴らす。
「そんなんじゃないさね。あたしゃ、恩を返したかっただけだよ。タイショさんから貰った恩をね」
ジュリアンヌの邪魔をしたいなら、ただ黙ってラメンを食べて、審査員としてレンに投票すればいい。あんな露骨に『敵対宣言』をしたら逆効果だ。あれでは客は、ナンシーの票を信用しなくなってしまう。
だけど、ナンシーは
それは彼女の目的が『レンを勝たせる事』でなく、『レンを守る事』だったからだ。
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