『ラメン』の具材

 迷った末に、茶色い方を試してみることにした。

 私は、二本の棒で茶色い束を深皿のふちに押し付けて、苦労して拾いだす。

 そして、それを口へと運ぶ。

 柔らかく煮つけられたそれは、どうやら植物であるらしい。食感はコリコリしてて、歯にわずかに繊維が感じられる。ピリリとした唐辛子に、ほのかな甘み、熟成されたような風味のタレが染み込んで……私は、目をカッと見開いた!


「こ、これは……っ! まさか、タケノコかっ!?」


 その言葉に、隣の常連男が声を上げる。


「タ、タケノコ……なんだい、そりゃあ?」


 この男、さっきから私に対して得意気な顔ばかりしていたな。

 やられっぱなしもしゃくなので、私はそちらを見ながら、したり顔で解説してやった。


「遠く東の地に、『竹』という植物が生えている。その竹が成長しきる前の幼体を『タケノコ』と言うんだ。しかし、驚いた……ここにきて、まさかこんな珍味に出会えるとは……!」


 タケノコは今、食通たちの間で話題の食材なのである。

 タケノコは輸送すると成長して硬くなってしまうため、食べるには直接東の地に行き、朝早くに竹の森を散策して幼体を見つけ出し、周りを焚火たきびで囲んで焼いて食べるしかないのだ。

 私は、タケノコとはそうやって味わう物だと思っていたし、それは他の食通たちも同じだろう。

 それなのに、この白装束の男ときたら……タケノコを甘辛い味付けで煮てしまうとは……驚いた!

 なるほど。煮ればそれ以上は成長しないし、油や塩気の強いタレに漬け込めば、腐らせることなく輸送もできる。


 す、素晴らしい! なんという発想だろう!? まさに最新の調理法っ!

 ありふれた材料ばかりでなく、今時のトレンド食材さえも取り入れた『ラメン』に、私は心底感服した。


 最後に、白いギザギザを見つめる。

 さて……この物体。

 これは一体、なんなのだろう?

 この規則性をもったトゲトゲ、そしてピンクの渦巻模様……見た所、マッドローパーの触角に似ている。

 しかし、いくらなんでもそんなものが食べられるとは思えぬ。第一、マッドローパーには致死性の毒がある。


 私はドキドキしながらも、棒でそれを拾い上げて口へと運んだ。


 一口齧り……んん……っ?


 ……正直に言えば。私はその時、『落胆』していた。

 どうも、この物体には、今までのような感動がないのだ。

 ペナペナしてて、味らしい味もなく、匂いも薄く、どれをとっても大したことない。


 ふう……こんなものか……。


 どうやら、この具材は私の「常識」を「ぶっ壊す」には至らなかったようだ。

 だがしかし、もう一度ラメンを食べてみて、私は驚いた。


 な、なんだと!?

 ……なぜだっ! この紐とスープ、最初に味わったのと同じくらいの感動があるっ!


 先ほどまで、私はラメンを一気に、半分も平らげていた。

 そのせいで、少々「味に飽きて」いたはずだった。感動的な味に酔いしれながらも、具材の存在を思い出したのは、その「飽き」が原因なのである。

 なのに、今食べてるラメンは、まるで出会った時そのままの味なのだ!

 ふと私は、思いついて、白いギザギザを口に入れる。

 このムチムチ感……脂っこいラメンを啜って塩っ辛くなった口に、ホッとする味だ……。


「そ、そうかっ! こいつの存在は、ラメンで重くなった口の中をリセットする役割だな!?」


 興奮した私は、思わず立ち上がる。


「いやはや、おみそれした! つまらぬ具材が入っていると思ったが、とんでもない! この深皿に入った具材、すべてに意味があるのだな……順番に食べることで味が広がり、口を直し、また新たな気分で楽しめる。まるで、料理一品でフルコース気分ではないかっ!」

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