幼少期
第2話
酷い激痛と息苦しさに声を上げた瞬間、私はアースフェクトという世界に生まれ落ちた。
私は、お一人様を気取ったキャリアウーマンだった。
結婚願望がなく、男は二次元のBLに限るという腐った方向に突き走った結果、モテ期を逃し婚期も逃し仕事がパートナーな生活を送っていた。
専門学校を出てそこそこ大手の広告代理店に勤め、それなりに仕事の評価を認められ、同年代の男性とも劣らない収入を得ていた私に足りないものは、『男』でした。
自分のプライベートに踏み込まれたくないし、踏み込みたくもない。
何より趣味の時間を邪魔されたくなかったので、世間では彼氏なし独身女の強がりとも取られそうな意見ですが、本当に趣味>彼氏だったのです。
私の一つ前の世代が『二十四時間戦えますか』『企業戦士』といったフレーズの方ばかりなので、必然的にパワハラ・モラハラ・セクハラは当たり前。
残業100時間超えは普通だし、ノー残業代もまかり通るブラック企業。
権利を主張すると降格&左遷、下手したら辞職するまで陰湿な虐めをするのを身をもって体験したので、色々と知恵がつき小賢しく立ち回ることが出来ました。
結果、私は校正担当の部長にまで上り詰めたのです。
部下のやる気を出させるために、身銭を切って打ち上げでお金を出したり、祝い事にはお金を包んだりしてました。
そうすると、劣悪な環境でも私の力になりたい役に立ちたいと思って頑張ってくれるのです。
私は直属の部下だけでなく、どの部署の部下にも同じように接しました。
理由は、会社を円満にするためです。
どこか一つ欠けただけで、業績が直ぐに悪化してしまう業界で生き延びるには社員全員が一丸となって目標に向かって進む必要があります。
私の発言は、どの部署の部長よりも重く大きかったと思います。
色んな仕事を掛け持ち無理がたたったのか、気付かぬうちにポックリ死にました。
死に方としては、この上なく良い方だと思います。
痛みや苦しみを感じることなく眠るように死ねるのは、一種のご褒美ですね。
生れて目が見えるまでは何もかも手探りの状態でした。
雑音(喋りかけられていた)をぼんやり聞きながら、腹が減っては泣き、粗相をした時は泣きと健やかに成長した。
しかし、私は人の言葉が理解できない残念なお子様になっていました。
雑音と思っていたのは、私に語り掛けていたのです。
がっつりスルーしていたので、私の語学力は年齢に比べて発達が遅れていました。
そんな私が、日本語で書き綴った絵日記を侍女が見つけてしまい父に報告が行き、果てには家長の祖父まで報告が上がってしまった。
上位宮廷魔術師のおじいちゃんが、我が家にやってきて片言の日本語で話しかけてきたのに吃驚したのを覚えています。
「コンニチハ、リリアン」
「こんにちは、貴方は誰?」
「ワタシハ、リチャード・スミス。ハナス、リリアン」
私と話に来たってことなんだろうか?
「話すと言っても何を話せば良いの?」
「シンゴンハナス。フツウノコトバ、ハナセナイ。ナゼ?」
「私は日本語を話しているだけよ。普通の言葉って、母さんたちが話している言葉の事?」
私の言葉を聞いて、近くに居た父に何やら話しかけている。
父の顔が、徐々に明るくなっていくのが分かった。
リチャードは、私の方に向き直りこう言った。
「リリアン、オボエル、アングロサクソンゴ」
「スミスさんが、語学の先生になるのね」
「ソウダ」
「分かった。よろしくお願いします」
こうして、リチャード・スミスが私の家庭教師になった。
日本語が神言(しんごん)で魔法を発動させる時に使う言葉なのだと知った時は驚いた。
リチャードも私と触れ合ったことで、カタコトだった日本語が流暢になり、賢者の称号を得たと甚くお礼を言われた。
魔法は、頭でイメージしながら神言(しんごん)を唱えるのが一般的らしい。
私はそれを無視して、完全なイメージだけで魔法を発動させるため無詠唱である。
科学の知識があれば、理解も出来るしイメージするのもお手の物。
この時ばかりは前世が日本人で良かったと思った。
遅ればせながら、私の異世界ライフが幕を開けた。
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