かけがえのない魔法との思い出を

麻藤 露満

プロローグ

 気づいたときには,既に私は私だった──────.


 どうして,私はここにいるのか──────.


 なぜ,私は生まれたのか──────.


 一体,私は誰なのか──────.


 己の存在すら,分からない──────.


 でも,そんな私を励ましてくれる人がいた.

 暗闇の中で怯える私を,暖かく抱きしめ,優しく頭を撫でてくれる人がいた.


 嬉しかった──────.


 名前を聞いても,その人は答えてくれなかった.

 ただ一言,「まっすぐ歩きなさい」とだけ言った.


 何も見えない──────.

 

 それでも,私は言われた通りに足を踏み出した.

 一歩,また一歩と進んでいくにつれて,徐々に目が見えるようになっていった.

 辺りは薄暗い森の中だった.

 振り返っても,そこには誰もいなかった.


 さっき人は,一体……?


 追い風が私の背中を押してくれる.

 草木のなびきが,私に行先を案内してくれる.


 それに身を任せ,私は道を歩き始めた──────.

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