第20話

 ***


 翌日、王宮へと向かうと入り口でローガンとカヴァネルが待っていた。


「あ、ローガン! カヴァネル様も!」


 ジゼルがニコニコしながら近づくと、明らかに眉根を寄せたローガンが大股に近づいてきた。


「バカか。こんな荷物持って来るなら、迎え行かせたのに」


「もったいないじゃない。これくらい、一人で持って来れるもの。途中、休憩したけど」


 ローガンはむっとして、ジゼルの荷物をひったくるようにして取り上げる。持ってくれたのだと気がつくのに、一瞬間が必要なほどにローガンの表情は不機嫌だった。


「行くぞ。部屋に荷物置いて、女王に謁見だ」


「あ、うん……」


 後ろに付き従うと、カヴァネルがなんとも言えない顔でほほ笑んだ。


「……ようこそ、リューグナー殿。わざわざのご足労に感謝します」


 一国の宰相に深々と頭を下げられて、ジゼルは大慌てした。


「あ、と、その……。こちらこそ、お招きくださってありがとうございます。よろしくお願いします」


 カヴァネルは、知性の灯る美しい顔でほほ笑む。その笑顔に胸がドキドキしてしまい、ジゼルが思わず顔を赤くすると、横からぐい、と肩を掴まれた。


「おいこら、カヴァネル。このチビは俺のだからな」


「分かっていますよ」


 苦笑いをこらえきれず、カヴァネルはくすくすと笑う。ジゼルが何だろうと思っていると、不機嫌なローガンに引っ張られた。


 王宮内に入ると、渡り廊下を抜けてどんどんと奥へと進んでいく。迷子になりそうだなと思いつつ、着いだぞと言われて部屋に入った。


「誰かと一緒の部屋なの?」


「俺と一緒に決まってるだろうが」


 ローガンのその言い分に、ジゼルは「はい!?」と固まった。それのジゼルを見て、扉を閉めながら堪えきれないという様子でカヴァネルが笑い出した。


「ああ、おかしい……リューグナー殿、この度はご協力感謝しています。しかし、これじゃまるっきりローガンにこき使われているというか」


 くすくすと笑う姿は、十以上も歳上とは思えない。穏やかで上品な顔立ちに、さめざめとした金色の髪の毛が魅力的だ。


「あっと、その……ジェラルドでいいです」


「ではジェラルド殿。本当に、ご協力に感謝します。ローガンの話では、瞬間記憶能力があるとか」


 手を持たれて、思わずジゼルが赤面すると、ローガンが後ろからジゼルをグッと抱き寄せる。


「おいこらチビ助。俺と恋人役なんだからな、カヴァネルに顔赤らめてんじゃねーよ」


「赤くなってない、バカ!」


 ローガンを追いやろうとしたのだが、いかんせんものすごい力で、ジゼルがどうにかできるような部類ではなかった。諦めてローガンを無視すると、カヴァネルに向き合った。


「見たものを記憶する能力です。だから、絵に描いて吐き出さないと、記憶に飲まれてしまいます」


「なるほど。それは大変だ。ですが、今の私たちの状況からすれば、あなたは救世主のような存在です。どうか、気がついたことがあれば、些細なことでもいい、すぐ私かローガンへ伝えてください」


「分かりました」


「ローガンは日中、名前を偽って変装し、城下の噂や情報を仕入れてくることが多いので、何かあれば私に言ってください」


 それを聞いて、どっちが嘘つきなんだ、とジゼルは憤慨しながらローガンを見つめた。どこ吹く風でニヤリとされ、ずっといいように振り回されているなと、ジゼルはため息を大きく吐いた。

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