別嬪さんは中身で損してる?

卯野ましろ

最近あたしに絡んでくる奴

鯉川こいかわちゃーん、一緒に行かない?」

「うん♪」


 次の時間は移動教室。あたしはクラスメートの男子たちに呼ばれた「あー、ちょっと待ってよ鯉川~」……のだけれど。


「私と行こうよ!」

「……は?」


 また邪魔が入った。


「ちょっ……何その顔~! 超ウケる! 美少女が台無し~」

「な、何よ! 失礼ね!」


 お邪魔虫は、最近あたしに絡んでくる女子・錦野にしきの。男子から人気のあたしとは逆に、こいつは女子から人気。……いや、あたしほどではないけど男子からもモテる。


「そっか。ここんとこ仲良いんだっけ、二人共」

「じゃあ俺たち、もう行くよ」

「鯉川ちゃん、女の子の友達ができて良かったな!」


 あたしを誘ってくれた男子たちが、せっせと教室から出て行く。

 

「み、みんなぁ~これは違うのよっ……」

「違うって何がぁ~?」

「くっ……」


 悪びれることもなく、あたしに話しかけてきた女を睨む。

 何なのよ、馴れ馴れしく肩なんか組んできて!


「やっだーこっわーい! キッ! なんてしないでよ鯉川~。ほらほら! いつもの、ぶりぶりぶりっこ見せてよぉ」

「……見せるかぁっ!」

「あ、ぶりっこ認めた!」

「うるさーいっ!」


 「キャハハ」と逃げ出す錦野を追う形で、あたしは退室した。


「……にっしー、超かわいそう。あんなクソ女と仲良くすることないのに」


 心ない言葉を背中にぶつけられながら。


「人が良いからなぁ、にっしー」

「先生にでも頼まれたんじゃね?」

「それ分かる。嫌われ者だもんな、鯉川!」


 ……あんたら、あたしのこと言えるのかよ。逆に迷惑しているのは、あたしの方だっつーの。


「……あんたさぁ……直観力、バカなの?」

「え?」


 移動中、あたしは隣にいる女に聞いた。なぜそんなに、あたしを不思議そうに見ているのか……。


「鯉川が難しそうな言葉を出したっ!」

「誤魔化すな! 質問に答えろよ!」

「アハハ。そっちこそ、わざわざ遠回りな言い方をするなし」


 いちいち何なのよ、こいつ!


「あぁ~もうっ! どうしてあんたは女に嫌われる女と仲良くするのよ! あたしといたって、変な目で見られるだけなのに。やめなさいよ、そういうの分かっているくせに!」

「……へー……」

「な、何よ……」


 今度はキラキラした瞳で、あたしを見つめてくる錦野。

 う……何なの、この照れは……。

 そういえば美人だったわね、この女。


「私を気遣ってくれるなんて。鯉川、優しいじゃん!」

「えっ!」


 予想外の言葉に戸惑いを隠せない。まさか同性から誉められるなんて。しかも性格。

 やばい、どうしよう。


「あ、喜んでる! 鯉川かわいい~」

「な……!」

「そうかぁ、顔に出ちゃうくらい嬉しかったんだねぇ」

「ちょっと、いい加減にしてよ錦野っ……」


 そのとき、あたしの体がふわりと何かに包まれた。何かの正体は「に、錦野……?」


「かわいいのは顔だけじゃないのに、その不器用な性格で大分損しているんだねぇ鯉川。でも、そういう部分も私は好きだよ」

「え……」


 女子から初めて「好き」と言われた。

 何だろう。

 不思議だけど、嫌じゃない。

 

「ま、そんなんだから私は鯉川を独り占めできるんですけどねー」


 二つの体が離れた途端、再びいつもの錦野が姿を現した。


「さっ、急ごうか」

「う、うんっ!」


 あたしの手を錦野が引っ張っている。二人きりの廊下を、あたしは何だか温かい気持ちで駆けた。

 隣にいて、決して悪い気はしない彼女と共に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

別嬪さんは中身で損してる? 卯野ましろ @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ