第4話 薬の魔女4

「おかしいっ!!薬は完璧に届いてるはずだよ!?それなのにっ……」


 アタシの媚薬は王弟にまで届いているはずなのに。

 成功したという話が、何年待っても届かない。


 それどころか定期的に国が荒れるせいで、そもそもにして王弟に婚約者をという話自体が消えちまう。


「貴族が近づけないんじゃ意味がないじゃないか!!しかも近くに女がいないんじゃ、媚薬の意味がない!!」


 ないないだらけで、どうにも上手くいかない。

 しかも生まれてまだ数年だった王弟は、いつの間にやら成人して仕事まで始めて。

 貴族たちの噂だと、かなりの仕事人間だとかで。用意した食事も菓子も、口にしないことも多いとか。

 そのせいで用意した媚薬が、王弟の口に入らないことも多くなってきた。


「なんなんだい本当に!!忌々しい一族だね!!」


 王にはどうやったって薬は届かないし、王弟は食事すら口にしない。

 王城ならまだしも、王宮には薬を持ち込ませられていないし。

 せめて媚薬の改良がもう少し進んでいれば、いっそ水にでも混ぜられただろうが。


「基本紅茶か水かレモン水、しかも紅茶に至ってはストレートなんて……アタシの媚薬は甘い香りが売りだっていうのに」


 本来であれば女子供に使用する目的のソレは、標的に受け入れられやすいようにあえて甘い香りを消さずに販売している。

 材料の関係上、どうしても消せないのは事実だが。それがアダになる日が来るなんて、思ってもみなかった。


「なんで王族ってのは、こうも薬を入れにくいモノを好んで選ぶかね。しかも揃いも揃って」


 兄弟揃ってそうなんだから、どうしようもない。

 というか、王弟は食事くらい口にすべきだ。そうじゃなければそもそもにして意味がない。


「さて……どうするかね。味も香りもない、完璧な媚薬は作りたいところだが……」


 それが完成する目途が立ってない状況だから、どうしようもない。

 かといって、それを待っていたら時間がかかりすぎる。


「とにかくまずは、例の薬を王族のいる場所にまで持ち込ませないとねぇ。階段の近くにいるっていう兵士を、どーにかして騙さないと……」


 幸いなことに、予想していた通り上流貴族とのつながりもかなりできてる今なら、そこまで忍び込ませるのには苦労しない。

 それよりもどうやってそこを突破して、薬を置きに行かせるか、だ。

 さすがに部屋の中に直接置くのは無理だろうと思ってるから、せめて見つかりにくい廊下の隅に置かせるとして。


「あぁ。少しだけ他の場所よりも強い薬にしないとだねぇ」


 貴族が多く出入りするような場所は、基本的に部屋の中に薬を置かせている。その方が効きが早いし、効率的だから。

 何より人数が多ければ多いほど、たとえ気がつかれても誰のものかも用途も分からなければ放置される可能性が高いからね。

 これに関しては長年の研究で結果が出てるから、まず間違いない。


「個人の部屋が与えられてるような人物たちは、逆にこっちが警戒してたからいいけど……」


 その他の貴族たちは、アタシの薬の影響を受けてないヤツはほとんどいない。

 おかげで判断力が最初から鈍った状態で店を訪ねてくれるから、その後の処理がしやすいこと。


「ま、女はそういうわけにはいかなかったけど。あいつらは嫉妬に狂ってるから、違う意味で扱いやすいねぇ」


 王城に頻繁に出入りするわけじゃないらしい貴族の女たちは、アタシの薬の影響を受けるような場所にはいないけど。その分自分で判断力を鈍らせてる。

 正直男よりも操りやすいのは確かだった。


「けどまぁ、女じゃあ王弟には近づけないな」


 無理やり通すことも出来なくはないんだろうが、今のままじゃ見つかった時にいい言い訳ができないだろう。

 せめて王弟の判断力も鈍らせてからじゃないと、アタシの身が危ない。実際一度媚薬の出どころが割れかけたからねぇ。

 薬で鈍らせてるとはいえ、他のヤツらは気づかなかったのに。ほんの小さな矛盾をついて、店まで騎士を名乗る男たちが押しかけて来たことがある。

 ちょうど新しい薬の完成する日で、全部売っ払った後だったからよかったけど。見つかってたらきっと、危ないどころじゃ済まなかったね。


「媚薬を店に置かないなんて、そうそうないからね。本当に運がよかったよ」


 とはいえ次もそうだとは限らない。

 けど媚薬の効果を知るには、女を近づけさせなきゃいけない。

 なのに媚薬を口にしない、なんて……。


「どーにかしないとだねぇ……」


 とにかく材料の見直しをしつつ、改良を急ぐとして、だ。

 当面の目標は、王弟のいる階への侵入方法の開発、だろう。


「まぁ、方法がないわけじゃあないけど……ねぇ」


 それは最終手段として取っておくとして、まずはいつもの薬を用意しておかないと。

 貴族ってのはいつ顔を出すか分からない生き物だからねぇ。肝心な時に薬がないんじゃあ、笑えない。



 けど、まさか。

 薬を用意した数日後に、ちょうどいい二人組がアタシの店を訪ねて来ることになるなんて。

 さすがのアタシでも、予想できなかった。















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