番外編 ~最初の二人~

『よかったねぇ、いい子たちで』


 ドゥリチェーラの城内と宮殿内に置かれていた薬を全て回収して、上空からその姿を見下ろす私の横で。

 そう話しかけてくるのは、魂だけの存在になった私の旦那様。


『僕も回収を手伝った甲斐があったよ』

「というか!!なんであの子までフィルと同じで英雄大好きっ子なのよ!!もう!!」


 なんとなく、思い出して悔しくなったのでそう口にすれば。


『あれ?ビーはレオの事嫌いだったっけ?』

「嫌いじゃないけどっ……!嫌いじゃないんだけどっ!!」


 ようやくレオとフィリベルトの口約束みたいな未来が現実になって、さらに来年には二人の子供まで生まれるけど。

 それを一番喜んでいるのがこの世界そのものだという事が、なんか納得いかない。


『だってレオが、もう一度この世界に来てもいいなんて言うんだもん。そりゃあ世界だって張り切るよ』

「恋する乙女かっ!!」

『まぁねぇ。それもあながち間違いじゃないかも?』

「母なる大地だもんね。ってちがぁーーう!!」


 そもそもその世界が張り切ったから、あんなに完璧超人みたいな王族が生まれちゃったわけで。

 完璧すぎるから、何とか隙を作らなきゃって取った方法がっていう。


『わざわざあんな強い薬作らなくてもいいのにね』

「そのせいであの子たち全員、認識がおかしくなってたじゃない。侵入者に気づかないとか、不審者を調べないとか、普通あり得ないでしょ」

『まぁでも、そうでもしないと今もまだあのままだったかもしれないんでしょ?』

「そう、だけど……」


 オルランディ家の本流の子たちも、名乗り出ないまま。いつまで経ってもヴェレッツァアイの女の子の正体なんて、分からないままだったのも事実。

 惹かれ合ってたし、いずれは同じように結婚していただろうけれども。

 それまでに何年かかるのかは、また別の話。


『でも割と初期から、うちの子だってことには気づいてたよね?レオの子孫たち』

「ヴェレッツァアイだったからじゃない?そもそも今のあの家のお兄ちゃんの方、うちのところの子と仲良かったじゃない」

『そうだったねー』


 一番早く二人が結ばれる方法だからと、世界が提示したこの未来に。誰一人として抵抗しようとすらしなかったあの子たちは、もう全員この世に存在しない。

 世界はあの子たちの魂を、ちゃんと次の生で幸せにして全うさせてくれると約束はしてくれてるけど。

 それでもやっぱり、私は納得いかない。


『ビー、あの子たちが決めた事だよ。本人たちの選択を、否定しないであげて?』


 そう、フィリベルトは言うけれど。

 でもそう言うフィリベルトだって、本当はもう生まれ変わっていたってよかったはず。

 私が永遠に近い命を一人で生きるのはつらいって口にしたから、世界がその魂だけはずっとそばに置いてくれてるけど……。

 きっとこんな形じゃない方が良かった。


『ほら、ビー。またなんか余計な事考えてる』


 それなのに、私の変化に気づいて優しく頭を撫でてくれるから。

 どうしても、離れがたくなってしまう。


「…………っていうか、ホントなんで体はないのに触れるのよ。感触もあるってどういうこと?どういう原理なのよ、フィルの魂」

『さぁ?でも便利だからいいんじゃないかな。僕が見えるのも触れるのもビーだけってところも含めて、僕自身は割と気に入ってるよ?』


 そう言いながらも、撫でる手は止まらない。

 それどころか、少しずつ下がってきた手は頬に触れて…………


「って!!ちょっと!?フィルこんなところで何っ……!!」

『……ふふ…。だってビー、難しく考えすぎてるから。少しは僕の事見て欲しいなって』

「み……見てるじゃない!!」


 こんな……!!こんなところでキスしてくる!?

 なんか年々性格大胆になってきてない!?ねぇ!?


『ビーにしか僕の姿は見えないからね。これはこれでいいかなって』

「受け入れ方が違う方向に行ってない!?」

『どっちでもいいよ。僕はビーと一緒に居られればそれでいいから』


 何と言うか……もしかして違う意味で、レオの影響受けてる?

 そう思ってしまうほどには、子供の頃とだいぶ変わったなとは思うけど。


『あの子たちはもう大丈夫。だからビーは少しお休みしよう?』


 結局いつも、私のことを気遣ってくれるから。


「そう、ね……。やるべき事も終わったし、いったんゆっくりしようかなぁ」

『今度はどこに行こうか?あったかいところ?それとも涼しいところ?』


 まるで旅行気分なのは、最近はずっとドゥリチェーラに拠点を置いていたから。

 確かにレオのことは大好きなフィリベルトだけど、同じくらい私と一緒にいられることを喜んでくれている。

 特に、世界からの指示がなくなった今は自由だから。


「どこに行こうかなぁ。なんか面白い場所がないか、知識の魔女のところにでも行って情報仕入れてくる?」

『それも面白いかもねー。彼女なら僕たちの知らない所を色々知ってそうだし』



 まさか、ヴェレッツァの初代の王族が。

 こんな風に今になって、世界を旅して楽しんでいるなんて。


 きっとこの世界中のどの時代の誰も、思いつくどころか考えもしないだろうな。


 ま、その内本当にレオがこの世界に訪れるまで。

 気ままに生きてやりますよ。



 もちろん、フィリベルトと一緒に二人で、ね。













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