第一章 春の代行者 花葉雛菊 ②

 大海原の中に浮かぶ『大和』。



 世界地図では東の位置に存在し、東洋の桜とも言われている。

 大和と呼ばれる国は、大和列島なる島々で出来ており、手折られた満開の桜の枝に島々の並びが似ていることからそう称されている。


 大和列島は北からエニシ、帝州、衣世、創紫、竜宮と大きく分かれて五つとなる。


 エニシは自然資源が豊富だ。大和の国内食料自給率はほぼエニシで賄われている。土地も広大で、牧歌的な風景とは何処かと問われれば大和人はエニシを想像するだろう。


 帝州は大和の首都である帝都が存在し、国際都市として栄えている。大和にとって主要な空港は帝州帝都にあり、国にとって空の玄関だと言える。

 大和人以外の外国人も多く住んでいる国際色豊かな土地だ。


 衣世は温泉郡が有名であり、昔から湯治の土地として栄えていた。近代に置いても主要な財源は温泉街での観光業だ。国内旅行地として非常に人気が高い。


 創紫は大和の歴史に於いて名高い霊山や火山が点在しており、歴史的建造物が多い。古都、という印象を多く持たれる土地だが、実際は近代都市であり観光業、産業と共にバランス良く成功している。


 そして最後に竜宮。大和最南端の島であり、他の島々とは植物も動物も異なる生態系を育んでいる。海には珊瑚、山には風守と呼ばれる木々。大和屈指のリゾート地として名高く、本来であれば年間を通して温暖な土地だ。


 この少女主従が足を踏み入れた場所は大和最南端、竜宮だった。




「竜宮、町も、雪、すごい、ね……飛行場、だけ、かと、思った……」




 今現在、竜宮はリゾート地という特色を雪によってすべて消されており、見る影もない。


「本当は、南国、みたい、な、あった、かい、とこ、だよ、ね……?」


 雛菊の戸惑いまじりの問いかけに、さくらは苦笑して答える。


「……今は四季が崩れていますからね。必然的に他の季節の力が強くなってしまいます。均衡の崩れと言いましょうか……夏、秋、冬だけだとどうしても……」


 雛菊は途端に憂いげな顔になり、うなだれた。


「…………ごめ……な、さい」

「御身が気になさることはありません。それに……我々は長らく続いたこの現象を解決する為に此処に訪れたのですから」

「……………う、ん」

「……雛菊様、これからもこういう景色を各所で見ます。無理して見ないで下さいね。雪は目を焼きますし……あまり長く見ない方が良い。何なら、さくらだけ見ていて下さい。それが良い。雪なんて、毒です」


 茶目っ気を出すようにさくらは言ったが、雛菊は首を振った。


「……甘やかし、だ、め。雛菊、は、目が、焼け、たって、見る。これ、が、仕事な、の」

「だめですか」

「だ、め、です、よ」


 黎明二十年二月十日。

 とある神様と従者が竜宮に訪れたという話は島内にすぐ広まった。

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