直観ですか、春ですか。

エリー.ファー

直観ですか、春ですか。

 私には好きな人がいる。

 最初に説明しておかなければならない。

 両想いである。

 この直観は絶対に正しい。

 まずは、そのことを論理的に証明しようと思う。

 だって、よく目が合うし、手が触れそうになったこともあるし、同じ日本語を使っているし、これだけの多くの生物がすむ地球という場所で同じ人間であるし。

 あと、春だし。

 季節的にもそういうのが、始まるものだと思う。

 私は恋愛体質なのだ。だって、心が躍るし、相手を好きになることで自分のことも好きになれるイベントというのはそうそうない。青春というものの真っ最中にいると、青春の価値にはなかなか気が付けないものだが、今の私は気付いている。

 何人かの大人が言っていた、青春というものはうんたらかんたら、という長い説明も今なら何となく理解できる。

 大切なのだ。

 恋愛も、青春も。

 そして。

 私もあの人も。

 どれくらいカッコいいのかと言われれば、これはもう言葉で説明すればするほど汚してしまうような気がして厄介そのものなんだけれど。

 まぁ、説明するけど。

 まず、髪の毛がさらさらで、シルクのような感じなのだ。

 この表現は、正しいのか。私、言葉とか怪しいからこういう感じで人の魅力を伝えたことが少ないんだけれど、大丈夫だろうか。

 ううん。

 まぁ、続けよう。

 あと、背が高くてめっちゃ足がめっちゃ長い。眼鏡をかけていてしかもそれが滅茶苦茶にあっているから、洗練された知的な雰囲気が漂っているのだ。彼を好きになってしまう人が私以外にもいるんじゃないかと思うと正直不安だけれど、私だけが知っていることもたくさんある。

 あぁ、触れあいたい。

 少しでもいいから手をつないだりしたい。

 目が合った時に少しだけ微笑んでくれたりするけれど、それだけじゃ足りない。そのまま近づいていって、彼の顔に私の顔を近づけてしまいたい。私の体を押し付けてその重さを彼に記憶させたい。

 普通、体重を知られるなんて嫌なものかもしれないけれど、私は構わない。

 私は自分の何もかもをさらけ出しているし、そういう覚悟だってある。

 トラウマになってほしい。

 本当はいけないんだけれど、彼の思い出の中に住まわせてもらえるなら、私が彼の中に負の思い出として存在してもいい。一生、恨まれてもいいし、一生蔑まれてもいい。

 彼には申し訳ないけれど、でも、それが私にとっての幸せだ。こうやって断言できてしまう時点で、私と彼との間には多くの接点がないのだと自覚してしまう。詰め寄って、心を通わせて、そういう本来あるべき姿がそこにはない。

 でも、いいのだ。

 私は彼のことが好きだし、彼も私のことが大好きだ。

 黒髪に、長身、白衣を着て、いつもパッドをもって支持を出し、そこに記録をする。

 もちろん、記録の内容は奴隷である私に投与した薬品の効果や、ウイルス、人体改造の結果を調べるためだ。

 今の私は腕が三本生え、そのうちの一本は壊死し、一本は小指くらいまでしか生えてきていない。一応、一本はまともな人間の手にはなっているが、これはあくまで他の二本との比較を簡単に行うために生やされたものだ。右目はまともだが、左目は点眼麻薬と言われるものを、もう二十種類以上打ち込まれ見えていない。ガラスに映った左目は緑色をしていて、黒目にあたる部分は存在していなかった。

 彼は私を見て微笑むのだ。

 私の体が出す記録を見て、私に向かって微笑むのだ。

 私だけが彼を笑顔にしているのだ。

 この直観は正しい。

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