第一話
ゆず
~目覚め~
朧げに、沢山の濁流と気泡に飲みこまれて、血の匂いと水の匂いに体全体が飲み込まれたような記憶
大好きだったおばあちゃん、周りの猫達に仲間外れにされていた僕を、いつも気にかけて遊んでくれていたナツキことなっちゃん
大好きな人達の記憶と、残酷な記憶が頭の中を渦巻くように入り混じって、何もわからなくなってゲロを吐いた
頭の中でなにかがブチッとちぎれて、その先にあったはずの大切な記憶がすっぽり、奈落の底に抜け落ちてしまったような感覚があった
気がつくと、僕はトイレとベッドしかない簡素な空間に、何者かによって閉じ込められていた
身体中をどこかにぶつけたらしく、節々も痛む、体全体の筋肉という筋肉の中で内出血しているような痛みだった
両腕はベッドに括り付けられていて、身動きが全く取れない
まるで僕を、化け物か腫れ物を扱うかのような、実験動物にでもされたような感覚
本能的に身体がここから生きて出ようとして、縛られている箇所を歯で食い破ろうとしたけど無駄だった
"僕は猫だ
猫、だったはずなのにニンゲンと同じ手と脚がある...?
言葉も喋れるみたい"
気がついたら僕は、病棟のベッドの上にいたんだ
頭から大量の血が流れ出ていたらしく、包帯が巻かれていて、ベッドには茶色く固まった血の痕が残されていた
薄暗い部屋の中で両腕をベッドに縛られて、頭に包帯が巻かれている
片方の目が見えず、もう片方の目は涙が枯れるほどに泣きじゃくったせいで目が充血し、視界はぼやぼやとしている
このぼやついた片目でかろうじてわかったことは5つある
この部屋には外界と通じるドアがひとつだけあるということ
ドア付近には、ようをたすためのトイレがあると言うこと
そして、部屋の中にはベッドがあり、そこに僕は括り付けられていて身動きが一切取れないと言うこと
ドアの反対側には二重に窓があって、外の様子がわかるけれど、自死防止のために窓は一切開かないと言うこと
天井には空気孔、常夜灯と蛍光灯、監視カメラのような、黒い物体、スピーカーらしき灰色の物体があるということ
ここから抜け出そうと、必死に足掻いて大声で助けを呼んだものの、誰の返事も帰ってこなかった
しばらく足掻いて疲れたので、僕はしばらく考え込んだ
どうして僕はここに居るんだっけ
なぜ閉じ込められて体を縛られなければいけないのだろう
この時点でさきほどの記憶が朧げに再び蘇る
もしかして、僕は死んだのではないか
ここは死後の世界で、僕の人生が最後の審判にかけられているんじゃないか
そんな考えが頭をよぎっていた
第一話 ゆず @citron_114
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。第一話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます