目を合わせて
手紙だけではシェケルの気持ちを前に向けることはできなかった。
まあ、ラブレターついでの遺書なんてもらって吹っ切れられる奴はそうそういないだろうし、聖女のラブレター自体が未練の塊だからな。
好きだったよ。でもこれからは他のことに目を向けてね。って書かれていたら、両思いだった時はまあこじれるだろ。
もともとシェケルが病んでいた中でさらにそんな情報を出したのが悪かったか。
タイミングミスったか? 本来ならもう少し後で見つかる予定だったわけだし、早かったのかもしれん。
婆さまに対しては今でも問題なかったと思うが、どうしたものか。
うじうじ悩んでもどうにもならんのよな。だからさっさと手紙を出して吹っ切れてもらおうと思ったんだけど、逆効果だったぽいな、これ。
でも、早めに渡した方がいいと思ったんだよな。どうしてなのかはわからないが。
見る限り多少は気持ちに変化がありそうな感じではあるが、シェケル自身がもとより悩みやすい上に誰にも相談しないで抱え込むようなタイプみたいだからなぁ。
いっそ手っ取り早く強引に気持ちを切り替えさせるか? ……それが一番ましかね。聖女もこんなにグダグダ悩まれているのも嫌だろうしな。
「シェケル」
手紙を視界に入れながらも少し遠い目をしているシェケルの前に立つ。声をかけても前に立っても反応はすれど、こちらを見ようとしないシェケルの視界に入るために屈む。
婆さまに頭が落ちないようにチョーカーらしきものを着けてもらったんだが、完全に固定しているわけじゃないから少しぐらつくし、それなりのサイズの胸が邪魔で足元が見えないからちょっとバランスが、っと。
「あ、やべ頭落ちそう」
「ちょっと!?」
視線を合わせるために少し屈んだところで、今まで安定して乗っていた頭がずれて落ちそうになってしまった。それを口に出した途端、シェケルがもうすでに起きた両手で落ちないよう支えてきた。
「やっと目が合ったな」
「あっ」
俺の頭を正面から支えたことでシェケルの視線と俺の視線が交わる。シェケルは咄嗟に視線を彷徨わせ始めるが俺の頭を両手で支えているため、完全に視線を逸らせないでいる。
この状況になるよう意図していたわけではないが、都合がいいのでそのまま話を進めることにしよう。
とりあえず、これ以上視線を逸らせないようにシェケルと同じように俺もシェケルの頬に手を添える。
「シェケル、よく聞け」
「っ」
じっとシェケルの目を見つめながら言葉をかけると、シェケルは身を固くし息をのんだ。
「もうすでに起きた過去は何をやっても変えられない。ここでうだうだ悩んだってどうにもならないんだよ」
「でも」
「でもじゃなくてさ、どうして聖女がお前にだけ個別で手紙を書いたのか、そこのところ理解できてる?」
「え?」
「婆さまに渡した手紙は複数に宛てたものだった。1人に宛てたものじゃないんだよ。だけどお前のは違う」
普段シェケル以上に接していたはずの婆さまは他の人たちと一緒で、シェケルだけ個別でもらっているのが、どれだけ深く想われていたのかって気づけよな。まあ、気づいていて目をそらしていただけかもしれないけどさ。
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