着替えへゴー
婆様の指示で、あの狭い出入り口から居住区内に入る。
教会の内装に比べて居住エリア側はかなり質素な内装、というよりも殆ど何もなかった。変に華美な内装だったら不信感を抱くし、こちらとしては安心で切るので問題はないが。
いや、別に関係者以外は入れる場所ではないから、飾る必要はないよな。
着替えということもあり、シェケルとは一旦分かれて、婆様の後ろをついて着替えをする場所へ移動している。他の子を起こさないように静かにしてくれと先に注意されているので、出来るだけ静かについて行く。
これから元々聖女が使用していた部屋へ移動すると説明されているが、やけに奥へ連れて行かれている。
いや、聖女の記憶の通りだから変な所へ連れて行かれているわけではないのはわかっているが、何故聖女の部屋がこんなに奥の方にあるのかがわからない。
聖女ってもしかして祭具ポジなのか?
すぐに出て来なくていい、という理由で奥になっているのかもしれない。それか安全性を考慮してこんなに奥なのかもしれないが。馬鹿な領主ですら欲しがったわけだし、ないとは言えないよな。
「そろそろ着きますよ」
そう婆さまが言った段階で通路の一番奥が見える場所まで来ていた。
「あの一番奥にある部屋が聖女様のお部屋になります」
婆さまがそう言って示した部屋のドアは他の部屋のドアに比べてかなり厳重、というか重厚な見た目だ。
聖女の記憶通りではあるが、かなりあいまいな記憶だったので聖女からしたらあまり良い印象が無いのかもしれない。重要人物が使う部屋のドア、といういい方向の見方も出来るが、見ようによっては自分を閉じ込めるための牢獄の扉みたいな物だしな。
「どうぞお入りください」
通路の突き当りに付き、内開きのドア故に先に中に入っていった婆さまが中に入るように勧める。
何だかんだ元は聖女の部屋。年頃の女性が使っていた部屋ということで本当に入っていいのか少し戸惑いながら中に入る。
中に入ればすぐに部屋がそれほど広くないことに気付いた。いや、人ひとり生活する分には十分広いサイズではあるのだが、聖女が使っていた、という割にはそこまで広くない気がする。
部屋の中にはほとんど家具などはなかった。ベッドと机を除けば、かろうじて身支度用のドレッサーとそれに合わせた椅子がおかれているくらいだ。これは聖女が亡くなってからなくしたのか、それとも元からないのか。亡くなってからそれほど時間は経過していないらしいから、元からない可能性のほうが高いな。
「あまりいい感じの部屋じゃないな」
「そうでしょうね」
声に出すつもりはなかったのだが、どうやら無意識に声を出してしまったようだ。
「もともと聖女様が日中こちらで過ごされることを想定しておりませんので、最低限の物しか置かれていません。ただ、ここは国の中でも端に位置する村なので、良いものが揃えられなかったという面もありますが」
「ああ、田舎だとよくあるやつか」
あっちの世界みたいにネットで注文すればなんでも揃うような世界ではないだろうし、聖職者ってのは質素な生活を重んじるとかどっかで聞いたことはあるしな。上層の権力に溺れた奴らはそうじゃないのも知っているが。
「こちらがお着替えになります」
そう言って婆さまは部屋に残っていた箪笥の中から一着取り出し、俺のへ差し出してきた。
「服は全て処分したと聞いていたんだが、まだ残っていたんだな」
シェケルから残っていないと聞いていたから、どこかに取りに行くものだと思っていたんだけどちゃんと残っているじゃないか。
「こちらは予備のお召し物でしたので一度も使っていないのです。流石にそのような物を他のお召し物と同じようにするのは教会の教義に反しますので」
「ああ、そういうことか」
一度も着ていない服だから、私物として処分はされなかったわけね。
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