どうやら私はこれから書こうとしていた小説の世界に転生したようだ

真理亜

第1話 転生したらしい

 私はニートだ。


 初めからそうだった訳じゃない。小中高までは多少人見知りのところはあったが、割と普通に人と接していたと思う。ニート気味になったのは、大学に入って親元を離れ一人暮らしをするようになってからだ。


 サークル活動にも参加せず、アルバイトに精を出すこともせず、ただ大学と一人暮らしのアパートを往復するだけの日々。友人は一人も居なかった。


 そんな四年間を過ごした後、就職したのは所謂ブラック企業だった。朝から晩まで安い賃金でこき使われ、休日も無く体を休める暇も無い。そんな生活を二年間続けて体を壊した。


 すっかり嫌気が差した私はすぐに会社を辞め、家に引きこもった。もう全てが嫌になっていた。そんな中、何気無しにネットをフラフラ見ていた私は、自分で書いた小説をネット上に公開するサイトに目を止めた。

 

 そこで公開した小説の人気が上がれば、賞金を得たり書籍化やコミカライズ化して稼ぐことも可能になるらしい。


 私は昔から空想することが好きで、良く頭の中で物語を作っては楽しんでいた。今までそれらを形にすることはなかったが、何もやること無いし軽い気持ちでやってみようかって気になった。


 それが私の運命の分かれ目だった。


 初めて投稿した作品でいきなり賞を獲ってしまったのだ。賞金を貰った私は、ビックリしたと同時にこれが自分の天職であると思った。


 そこからはとにかく書き捲った。寝食を忘れて一本でも多くの作品を世に出そうと書いて書いて書いて書き捲った。気が付くといつの間にか10本もの連載を抱えていた。


 その間、書籍化やコミカライズ化の話もあったが全て断った。出版社の担当者や漫画家に会うのが嫌だったというのと、一本の作品に時間を取られるくらいなら、その分、別の作品を執筆する時間に充てたかったというのが理由だ。


 なにせ人気が上がれば上がる分だけ、その人気がポイントに還元されてお金になるというシステムだ。生活には困らなくなった。人気さえあれば。


 だから人気が落ちないように必死だった。その日、10本目の連載を更新した後、軽い目眩がした。ちょっと無理し過ぎたのかも知れない。そう言えばここの所ほとんど眠れていない。


 眠ろうと思ってベッドに入っても、頭の中にストーリーが浮かぶとすぐ起き出してパソコンに向かう。そんな毎日が続いていた。


 ブラック企業が嫌で辞めたのに、これじゃあ一人ブラック企業だなと自嘲しつつ、少しペースを落とそうと思っていた時だった。


 11本目の連載ネタが頭に降りて来た。


 大急ぎでプロットに纏めた。これはイケる! 書く前からそんな予感をヒシヒシと感じていた。ペースを落とそうという考えはどこかに吹き飛んでいた。


 プロットを書き終え、登録ボタンを押した時だった。


 世界が暗転した。



◆◆◆



「...っ嬢様、お嬢様! 起きて下さい! 朝ですよ! エカテリーナお嬢様!」


 エカテリーナって誰だ? ここはどこだ? 見知らぬ天井...いやあれは天蓋か?


「ほらほら、起きて下さい。旦那様も奥様もお待ちかねですよ!」


 誰だこれ? メイド? 旦那様に奥様だと? ハッ! まさか! 私はベッドから跳ね起きて姿見の前に立つ。


「う、嘘でしょう~!?」


 そこには10歳くらいの眉目麗しい美少女の姿があった。


 どうやら私は転生したらしい。



 

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