第4話 向かう先は
王宮からの帰路、馬車の中でトリシャはアイシャに謝罪した。
「ごめんなさいお姉様、勝手なことを言って...」
「あぁ...いえ...うん...まぁ、確かにあのくらい言わないと、あの二人は引いてくれそうもなかったけど...出来れば言う前に一言相談して欲しかったというか...」
「反省してます...」
トリシャはシュンとしてしまった。
「でも珍しいわね、トリシャがあそこまで感情的になるなんて」
「だってあの、人を小馬鹿にしたような話っぷりが、どうしても我慢ならなかったんですもの」
ランドルフのことを言ってるんだろう。トリシャは憤慨している。
「私もイラッとしたけど、あれは態とこっちを挑発してきたんだと思うわ」
「それにまんまと引っ掛かった私はトンダ間抜けですね...ホントすいません...」
「もういいから、謝らないで。それにね、トリシャの切り返しは向こうにとっても予想外だったと思うのよ。私だってビックリしたんだから。これで少し時間が稼げると思う」
「と言いますと?」
「今度はお父様に圧力を掛けるでしょうね。私達を修道院に入れないようにと」
「そうでしょうね...」
なにせ婚約を打診しないよう、全ての家に圧力を掛けるくらいだ。その程度平気でやるだろう。それにあれはトリシャの勇み足みたいなものなので、アイシャもトリシャも修道女なんて堅苦しい者になる気は最初から無い。
なにせ目指しているのは。悠々自適のスローライフなのだから。いきなり言われる父親はさぞビックリすることだろう。事実確認やらで時間が掛かるはず。
と読んだのだが、アイシャは王子達の妄執を甘く見ていた。二人がすぐに領地に向かうことを読まれていたと後で知るハメになる。
「ちょっと早いけど、領地に引きこもりましょう。どうやら我が家は監視されてるみたいだし。使用人に密偵でも潜り込ませているんでしょう。さすがに領地までは連いて来ないと思うから、そこで対策を練ることにしましょう」
「分かりました」
「という訳でお父様、私達は今から領地に向かいます」
「え~と...何が「という訳」なのか説明してくれる気は?」
「ありません」
「あぁ、うん、そんな気はしてたんだ...」
「私達が居なくてもすっぽん鍋は毎日食べて下さいね?」
「も、もちろんだよ...」
「そうは言っても私達が居なければどうせサボるでしょうから、お母様にすっぽんのエキスを渡しておきましから」
「すっぽんから逃げる術無し!?」
◇◇
一方その頃、王宮のトリスタンの執務室では、王子兄弟が揃って渋い顔をしていた。
「まさかあんな反撃を食らうなんてな...」
「アイシャの方が頭は切れると思っていたので警戒はしてたんですが、トリシャの方は完全にノーマークでしたね...」
「取り敢えずキスリング伯爵には根回ししておこう。何があっても娘を修道院に入れないようにと。娘に甘いとの評判だが、さすがに修道院入りは反対するだろう。あとは...」
「彼女達は恐らく領地に向かうでしょうね。我々の監視の目から少しでも逃れようと」
「キスリング家の領地までは馬車で3日だったな。では我々は明日、馬を飛ばして先回りすることにしよう。ヘタな小細工をされたら敵わん。ヤケになって既成事実でも作られたら、今までの苦労が水の泡だしな。お前も今日中に仕事を片付けておけ。僕は明日の分まで既に終わらせた」
「分かりました」
「フフッ、彼女達の驚く顔が目に浮かぶようだ」
怪しく笑うトリスタンだが、彼らは知らなかった。アイシャとトリシャが馬に乗れることを。そして彼らより早く領地に着いて、そこで運命の出会いを果たすことを。
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