第73話 帝都の様子
(ギルド協会本部 ギルドマスター ボルビック)
「皇宮の様子がおかしいだと? どういう事だ」
ギースによるゴーレムでの皇宮の襲撃から一夜明け、ギルド職員がボルビックの元へ情報を伝えて来た。
「それが、いつもなら夜明けと共に皇宮の堀の跳ね橋が降りて、近衛騎士たちが帝都内の巡回に回るんですが、もう10時を過ぎてるというのに、跳ね橋も上がったままですし、誰も出てくる様子も無いんです」
「確かにそれは変だな。皇宮内には御付きの人間を入れると2000名以上が居る筈だ。誰も姿を現さないのは不自然すぎる」
「ギルドで何か準備をしておくことは有りますか?」
「いや。政治や国家の事にはギルドは不介入だ。依頼料を持って調べてくれ! と言って来る依頼者が居れば別だがな」
そう話をしている時だった。
ボルビックの魔導通話機が着信を告げる。
『ハインツ宰相か? 皇宮は何があったんだ?』
『それは…… 帝国の根幹を揺るがす重大案件だ。現時点では誰にも知られない様に対処を頼みたい』
『人払いをするので、少し待ってくれ』
『解った』
ボルビック一人になり、宰相から聞いた話の内容に耳を疑った。
一夜にして皇宮が謎のゴーレムによって落とされ、宰相、陸軍将軍、近衛隊長、皇帝の四名を除き脱出は出来なかったと知らされた。
各行政を担当する大臣や、皇帝の家族。
騎士団や使用人に至るまで、ほぼ生存の見込みは無く、現在皇帝の弟である公爵領地に向けて移動中である事。
そこで体制を整え、大規模な討伐軍を組織し、皇宮を取り返すための軍を立ち上げ帝都に進軍する事を告げられた。
『待て。宰相。そうなると現状帝都では、何も混乱を見せて無いにも関わらず、大量の軍が帝都に攻め入るというのか?』
『そうだ……』
『敵の正体は解っているのか? ゴーレムを操っている者が誰なのかは?』
『まったく解らん。ギルドが調査して情報を貰えないか?』
『それは…… これが戦争行為だというのであればギルドは不介入が基本だ。この帝都の治安が乱れるような、皇帝側の勢力の挙兵にも賛同しかねる』
『なんだと? 皇宮のゴーレムどもが帝都の街を襲えばどうするつもりなのだ?』
『帝都の民衆に危害が加えられるような事があれば、この帝都の冒険者ギルドに登録のある1万人の冒険者がそれを守る。だが人を集める理由が必要だ。皇宮が落とされたのは発表出来ないんだな?』
『今、それを公にすれば帝都は大混乱になるだろう』
『では、ギルドも人を集める事が出来ない』
『Sランクならどうだ? シュタットガルド翁なら出来るのではないか?』
『翁に知らせるのは構わないのか?』
『一人だけであれば問題は無いだろう。そこからの情報漏れも無いだろうし』
『しかし…… 仮に翁に調査して貰って、ゴーレムを殲滅となると、宮殿の無事は保証できないが、構わないのか』
『それは…… 困る』
『取り敢えずだ。翁に連絡は取るが、気まぐれな方だから、どうなるかは解らないぞ?』
『ギルドに到着されたら、私の方に連絡を頼む』
『解った』
一体どこの勢力だ。
ヒュドラ騒ぎの次は、ゴーレムの軍隊だと? 何が起こっている。
取り敢えずは、翁に連絡を付けねば。
◇◆◇◆
『シュタットガルド翁。ボルビックです。今大丈夫でしょうか?』
『なんじゃ? わしは今アケボノでご馳走を食べるので忙しいから、手短に済ませよ?』
『なっ…… 翁はアケボノにいらっしゃってるのですか?』
『そうじゃ。前回の依頼で珍しく、メーガンやジュウベエ達と顔を合わせたから、一緒に来ておる』
『メーガン様やジュウベエ殿も一緒なのですか?』
『レオネアもおるぞ』
『それは…… ちょっと帝都で緊急事態がおきまして、お耳をお借りしたいのです』
『なんじゃ。急げよ? しゃぶしゃぶの肉がジュウベエに盗まれる』
『まじめな話なんですが……』
『急げ』
『皇宮がゴーレム兵に落とされました』
『なんじゃと? 帝都の民に被害はあったのか?』
『いえ。皇宮内部だけです。今の所は帝都の民はまだその事実を知りません』
『皇帝はどうした?』
『皇帝。宰相。騎士団長。陸軍将軍の四名だけが脱出して、現在弟君の公爵領に移動中だそうです。そこで軍備を整え帝都に攻め込むと言っておりますが、そんな事に成れば帝都は大変な事になってしまいます。翁のお力で、穏便に対処できないかとのご相談です』
『ちょっと待っておれ。後で連絡を入れる。くれぐれも皇宮内のゴーレムを刺激して、帝都に被害が及ばない様に気を付けるんじゃぞ?』
『解りました』
◇◆◇◆
「どうした爺ちゃん?」
「帝都で事件が起こったらしい。ギルド連合の本部のマスターがわしに対処できないかと相談して来た」
「どんな事件だ?」
「黒いゴーレム兵の集団が、皇宮を占拠して内部の者は皆殺しになったそうじゃ」
「なんだって? ゴーレムは命令が無いと動かないだろ? 誰がやったんだ」
「解らないそうじゃな」
アケボノの首都エドの都の料理旅館で、みんなで楽しく昼食を取っている時に入った、その一報に一同は驚いた。
「黒いゴーレムってさ? 僕が通商国の遺跡に潜った時にも居たんだけど意思は無いよね?」
レオネアの言葉に俺は、魔法の鞄に収納してある無力化した黒曜石ゴーレムを取り出して、みんなに見せた。
「カイン。それは? あの古代遺跡に居た奴なのか?」
「そうだジュウベエ。今は俺の鞄の中に無力化した奴を1300体程収納してる。黒曜石だし素材として高く売れないかと思ってな」
「弱点はあるのか?」
「俺は穴掘って、水を注いで電気で痺れさせたら、簡単に動きは止まったな。みんなも雷系の攻撃手段はあるだろ?」
「私は無いわね。でも光属性でも対処できそうね」
「メーガンなら、それこそフェザービットだっけ? それで問題無く無いか?」
「恐らくはね」
「対処は出来るとしてじゃ…… 誰がどんな意思で、ゴーレムに皇宮を襲わせたかが問題だ」
その時フィルが呟いた。
「きっと…… ギースとミルキーが関係してるような気がする……」
「あ。確かにあそこで生き延びていたとしたら、可能性はあるな。だが俺達が帝国の出来事に介入する義理も理由も無いし、どうしたもんかな」
「わしも帝国の政府には別に恩などは感じておらぬから、別に放置でも構わんのじゃがの、長く生活しておると、それなりに知り合いも、おるからの。帝都の一般民衆にもし被害が出ると言う事であれば、それは守ってやりたいと思う。ちょっと距離はあるが、帝国迄送って貰っても構わぬか?」
「ああ爺ちゃん。構わないぞ。俺達の手助けは必要そうか?」
「それには及ばぬじゃろうて。今カインが敵の実物を見せてくれたので、これが千体居ろうと、一万体居ろうと、どうとでもなるわい」
「頼もしいな」
こうして俺達はエドでの休息を切り上げて、帝都へと向かう事になった。
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