第72話 ドラゴンブレス⑭
(ギース)
この古代遺跡に籠って既に一週間が経過した。
「ミルキー。ゴーレムどもの生産状況はどうだ?」
「そろそろギースの言ってた1000体になるよ。でもこれだけのゴーレムでどうやって、帝都を手に入れるつもりなの?」
「それは、俺に任せろ。今晩出発する」
「メンバーはどうするの?」
「作戦は隠密行動が基本だからな。俺とミルキー、後はアンナとバネッサの4人だけだ」
「チャールズ達は?」
「ここの食糧なんかが乏しくなって来たから、タベルナの街に行って食料を仕入れて来て欲しい」
「了解しました」
ギース達四人が目立たない様に山肌を移動しつつ、帝国の帝都『オルドラーゼン』の街へ到着したのは三日後だった。
深夜の帝都皇宮前において、バネッサが魔法の鞄からゴーレムを取り出す。
アンナとミルキーが、取り出したゴーレムを皇宮の周りの堀の中に投げ込んで行き。
千体すべてのゴーレムを放り込んだ後で、ギースがおもむろにコアクリスタルを取り出し、ゴーレムに指示を与えた。
『敵の抹殺を命ずる。範囲はこの堀の内側に居るすべての人間だ』
一斉に黒い塊が堀の中から皇宮へと進み始めた。
程なく、激しい喧騒に皇宮全体が取り囲まれた。
「どうだミルキー。簡単だろ?」
「ギース…… 結構鬼畜だね」
「そうか? この中にいる奴らは命令だけして王国に10万もの兵を差し向ける事を、やってのける奴らだ。変わらないさ」
「まぁそうだね。それでこの後はどうするの?」
「音がしなくなったら、ゴーレム達の命令を解除して、俺達が乗り込む」
「その後は?」
「まだ考えて無い…… ミルキーを宰相にしてやるって言っただろ? ミルキーが考えろよ」
「ちょっ。確かにそう言ったけど、いきなり放り投げるの? まぁ良いわ。考えてみるよ」
◇◆◇◆
(皇宮内部)
「皇帝陛下! 敵襲です。すぐに地下通路から脱出をして下さい」
「騎士団長か。どこの国だ?」
「まだ。状況が何も解りませんが、大量の黒いゴーレムが襲ってきて、皇宮内の衛兵や騎士団も全く手に負えずに、やられています」
「ゴーレムだと? 兵士では無いのか? 街は? 帝都の街にも被害が出ておるのか?」
「外部との連絡も取れずに全く、外の状況は解りません」
「宰相と将軍を呼べ。魔導通話機を持ってこさせて外部との連絡を取らせろ」
「陛下、地下通路へお急ぎください。すぐにゴーレムが押し寄せてきます」
「解った……」
玉座の下から通じる脱出路を知っているのは、皇帝であるガリウス本人の他は、宰相と近衛隊長のみであり、皇子や皇妃でさえ皇帝と一緒に入らなければ、その存在を知る事は無かった。
これにより、この帝国の皇族は殆どが失われ、皇都から離れた公爵領に皇帝の兄弟と前皇帝の兄弟が残るだけとなる。
皇帝本人は、取り急ぎ側に来る事が出来た宰相、近衛隊長、陸軍将軍の三名だけを伴い地下通路からの脱出を果たし、公爵領を目指した。
「しかし…… ゴーレムと言う事は、古代遺跡の攻略に成功した通商連合国の仕業なのか?」
「現状では、まだ何も情報がありませんし、この帝都の街中に兵が居るような気配が見えません。皇宮のみを狙っての襲撃ですので、判断は致しかねますが、通商連合国の可能性も無いとは言い切れません。先日の王国への遠征の失敗で軍事力が下がっているのは、各国が知るところですので、それを狙っての襲撃に間違いございません」
「皇帝陛下さえご存命ならば、必ず皇宮を取り戻し今回の襲撃を企てた勢力を滅亡に追い込めますので、気を強く持って事に当たっていただきたいかと……」
「宰相よ。皇宮の外から国民に対して命令を下し、それを素直に受け入れる物であろうか?」
「それは…… 逆に皇宮を制した勢力が、皇宮内より何かを発信してきた場合、そちらを信用する者も少なからず出て来るかと……」
「それでは、帝国全域の兵をすべて集め、一気に皇宮を取り戻す事は可能なのか?」
「陛下…… 今は何分にも情報不足です。早急に公爵領に入り、情報を集める事が最優先になります」
「解った」
◇◆◇◆
(ミルキー)
「ギース! 決まったよ!!」
「早いな。本当にちゃんと考えたのか?」
「もっちろんだよ。あのね、何もしないのが良いと思うよ?」
「何だそれは?」
「私達ってまだ見られて無いからさ。きっと誰がやったのかを必死で探すと思うんだよね? それこそ周りが誰も信用できない状態で」
「そうだろうな」
「バネッサにここの死体を魔法の鞄に入るだけ運ばせて、遺跡にばら撒けばきっとまたすぐに、ゴーレムは数が作れると思うんだよね。それを使って、この帝国の敵対勢力を
「なる程な。悪くは無いけど時間が掛かるのが面倒だな」
「取り敢えず、お金や宝はここに死ぬほどあるし、必要な分持ち出して、通商国や王国で、食料とか買いためておけば、今は十分だと思うよ。焦ったら絶対良くないと思う」
「ミルキー。意外にまともな意見だな」
「だって、世界の支配者に成れるかも知れないチャンスなんだから、少しはまじめに考えるでしょ?」
「解った。取り敢えずそれで行こう」
「ギース? 本当は面倒になって来たとか言わないよね?」
「そんな事あるか。この帝国を支配した後は、俺は神になってやる」
「とにかく、今はある程度足場が固まるまで、正体がバレない様に行動するのが大事だと思うよ」
「解った。ここはゴーレムに警備させておけばそう簡単に取り戻される事も無いだろうし、取り敢えずミルキーの作戦で行こう」
バネッサとカレンは流石に死体を運ぶと言われて嫌な表情をしたけど、もうこうなったら、やるしかないんだからね!
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