第69話 バトルロイヤル④
俺に向かって来た、一般参加者たち10名に対して俺はフォーク十本を腰のベルトから取り出し構える。
俺を取り囲み、襲い掛かる寸前の猫獣人たちに対して、両手に持ったフォーク10本を一気に投擲した。
そのフォークは全員の太ももを貫いた。
それでも、半分程は突き刺さったフォークを物ともせずに、突っ込んで来たが、スピードは無い。
全員に魔法の鞄から取り出した、タバスコを振りまいた。
足に傷を負ってる上に、猫獣人はとても嗅覚が鋭い。
全員がその場で悶絶して、勝負ありだ。
観客の猫獣人たちも、痛さと匂いが伝わった様で、相当嫌そうな表情をした。
◇◆◇◆
(レオネア)
僕は勝つ気満々だったのに、メーガンを相手に気を取られた一瞬の隙を、カインにやられちゃったよ。
生活魔法も精霊魔法も多重起動は出来ないから甘く見てたんだけど、やっぱパーティプレーって便利だよね。
シュタット爺ちゃんでさえ、チュールちゃんにやられちゃうとか、パネェよね。
そして残ったステージ上のメンバー。
カイン! 僕たちに勝ったんだから中途半端に負けたら承知しないんだからね!!
あー、あれがカインの本来の戦いのスタイルなのか。
フォーク…… 痛そうだね……
で…… タバスコだって? ヤバイよ僕のサキュバス攻撃よりも悪辣だよ。
絶対痛い。
てか普通に泡拭いて気絶してる人居るし……
獣人だから、匂いにも敏感なんだろうね…… ご愁傷様だよ。
ジュウベエはどうなってるのかな?
◇◆◇◆
「ここは、バトルロイヤルルールだから、悪いがパーティで勝たせて貰う」
「おう。やれるもんならやって見ろ」
正面からジュウベエだけを見据えて、サイダーを筆頭に突っ込んで来た。
ジュウベエは腰を低く落とし八双の構えで迎え撃つ。
甘いなどっちも……
レオン。
てめぇ今自分で言ったばかりだろ。
これはバトルロイヤルだ。
俺はサイダーが突っ込んできてジュウベエがタワーシールドに激しく打ち込もうとした瞬間を見計らって、生活魔法の【穴掘り】を発動した。
魚鱗陣の量端に位置した、ロデムとミャーラの二人は飛び上がってからの空中軌道攻撃を行う予定だったみたいで、穴に落ちなかったが、ジュウベエ、タイガ、レオン、サイダーの4人は足場が崩れて4m程下へと、落ちて行った。
魔法剣士のロデムが空中から魔法剣を俺に向けて放つ。
闇属性の飛斬だ。
俺は、背中の鍋蓋を素早く左手で構えて受け流す。
攻撃は出来ても空中で避けるのは難しいだろ?
右手にステーキナイフを4本程持って、ロデムに投げつけた。
剣を持つ右手に全て命中して、剣を取り落とした所で、ロデムはリタイア。
その隙にミャーラが双剣で俺に斬りかかって来た。
その時だ。
ジュウベエ達が落ちた穴から、凄まじい咆哮が聞こえて、穴から三人飛び上がって来た。
ジュウベエ、タイガ、レオンの三人だ。
しかも…… タイガとレオンの二人が獣化してた。
体も大きくなり全長3m程もあるライオンと虎だ。
ジュウベエは満足そうに頷き、再び刀を構えると迷わずレオンとタイガに…… では無く俺に攻撃してきやがった。
しかもジュウベエの絶壊刀は炎のエンチャントをしてあり真っ赤に燃えあがる様な刀身は、一振りで5m位の射程を持ってやがる。
ヤバイな。
だが、火の扱いなら俺の方が長けてるぞ! 料理人なめんなよ。
俺が取り出したのは、特注の中華鍋だ。
この鍋は、チタンをベースに、オリハルコンとヒヒイロカネも使った合金だから、どんな高温でも溶けねぇ。
錬金を使わない限りはな。
俺はジュウベエの攻撃を中華鍋で受け続け、鍋はいい具合に熱せられた。
そこで、魔法の鞄に仕舞いこんである、オークジェネラルのラードと炊き立てのご飯と卵を取り出して、チンチンに熱せられた中華鍋を使い一気にチャーハンを作り上げる。
醤油とごま油を鍋に回し入れると最高にいい匂いが、ステージ上を支配した。
嗅覚に優れた獣人たちは、一瞬で俺の中華鍋に釘付けだ。
コショーで味を調える振りをしながら、生活魔法の【送風】を使い、ジュウベエとレオン達の方向に、派手にコショーと普段は使わないが特別にパウダー状の調味料を撒き散らかした。
盛大にクシャミを始めた瞬間に、中華お玉を使って出来立て激熱のチャーハンをタイガとレオンの口に放り込んだ。
クシャミで大口広げてたし、獣化で的がデカかったから楽勝だ!
「「あっちいいいいいいいいいいいいいいいいいい」」
タイガとレオンは口の中を火傷して、リタイアだ。
どんなに体を鍛えても、口の中は中々鍛えられないからな。
残すはジュウベエとミャーラだけだ。
ジュウベエがくしゃみをしながら突っ込んで来た。
「チャーハンに唾が入ったらキタネエだろうが!」
俺がジュウベエにそう言い放った隙に、ミャーラが飛びかかって来て……
チャーハンに顔を突っ込んだ。
やっぱり…… 効果は抜群だったか……
「おい? 熱くないのか?」
俺は余りにも勢いよくチャーハンに突っ込んで来た、ミャーラを逆に心配した。
「ウニャァ。幸せニャ」
うっとりした表情でミャーラは俺から鍋を奪い取り、チャーハンを一気食いしてる。
だが…… まだ勝負はついてなかった。
俺がミャーラの心配をした瞬間に、ジュウベエが六角棒形体の絶壊刀を振り抜くと、俺達はまとめて場外に弾き飛ばされた。
「それまで!」
ミケーラ男爵が終了を宣言した。
「勝者ジュウベエ殿」
ステージには穴の中にサイダーも残っていたが、自力で出れないから敗者扱いだ。
「ねぇカインあのチャーハンってどんな作戦なのよ……」
「フィル済まん。ミャーラの食いつきが凄すぎて、油断しちまった」
「カインーいい匂いがするー」
普段よりも甘えた感じのチュールが俺に引っ付いて来た。
そう、俺がチャーハンにコショーと共に加えたのはマタタビの粉末だった。
ミャーラはステージの下でまだうっとりしてる。
「カイン…… あんた僕のサキュバスとやってる事変わんないじゃん」
「ああ。あれを見て思いついたんだからな」
「そっか」
「でも最後にジュウベエに持ってかれたな」
「僕ならジュウベエとタイマンなら、100%勝てたんだけどね」
「そうなのか?」
「うん」
ジュウベエには賞金が渡されて、漸くバトルロイヤルも終了し、アケボノへ向かおうと思った時だった。
俺は大事な事を忘れていた。
この場に居る観客の殆どは、猫獣人だと言う事を……
ミケーラ男爵が俺の側にやって来た。
「カイン殿。非常に頼みにくいのだが、その、さっきのチャーハンを私達にも振舞ってもらえないか…… 勿論材料はこちらで用意するので……」
観客たちも勝負の結果よりも、チャーハンの香りに心を奪われて俺から目を離さない……
「どうしよう……」
「美味しいチャーハンを作って上げたらいいんじゃない? 嫌では無いでしょ?」
「ああ。そうだな」
それから俺は、日が暮れるまでチャーハンを作り続けて振舞った。
9000人分のチャーハンはパネェな。
メーガンやジュウベエ達もみんなで飯炊きを手伝い、みんなの幸せそうな顔が見れたからまぁ満足かな。
だが…… 腕がパンパンだぜ!
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