第59話 ドラゴンブレス⑫
(ギース)
俺は、この場で高らかにドラゴンブレス帝国の建国を叫んだ。
だが…… 今一番大事な事は……
食料が尽きる前に、ここから今この場に居る新人冒険者80名とドラゴンブレスのメンバー9名が果たして脱出できるのかと言う問題だ。
「ねぇギース。どうやって外に出るつもり? それにこのゴーレムって言う事聞くの?」
「ミルキー。俺は誰だ? 俺が望めばそれは必ず叶うんだよ! それがドラゴンブレス帝国初代皇帝ギース・フォン・ドラゴンブレスの持って生まれた運で、それが全てだ」
「なんだかよく解んないけど…… ギースがそう言えば、何とかなる様な気がしてきた」
「そうだろ?」
今この場に残っているクランのメンバーは
ミルキー 魔導師
チャールズ クレリック
バネッサ サポート(ポーター)
ウエールズ 槍術師
カレン 騎士
シーラ 魔法騎士
アンナ クノイチ
スーザン サポート(美容師)
の8人が残っている。
ミルキーの所の斥候ミカエルを失った事が惜しいが、バランスは取れているし、何とかなるだろう。
冒険者予備軍の80人も、みんなまだ若いし体力は十分だろう。
指示さえ出してやれば、役には立つはずだ。
使えなければ、肉壁替わりにすればいいだけだしな。
「いいか、既にお前たちの命はあのマグマの池の中で一度失ったと考えろ。今この場で生きていられるのは、勇者である俺の加護によるものだ。俺を信じて付いて来い」
「「「「うおおおおおお! ギース様! ギース皇帝万歳!!」」」」
ふっ簡単なもんだ。
サポートの二人が持つ魔法の鞄と、冒険者予備軍の80人が持っていた食料を取り敢えず全部出させてみたが、節約しながらだったら二週間は食い繋ぐ事が出来そうだ。
逆に言えば二週間で脱出手段を見つけなければ全滅の可能性もある。
どうする?
冒険者予備軍の奴らを、皆殺しにしてしまえば、二か月程度持たせる事は出来るが、それでは根本的な問題解決には成らない。
今、やらなければならない事は、ここで作られるゴーレムを支配下に置く事と、ここから脱出する方法を見つける事だ。
それが出来れば今ここに居る奴らは、みんな俺の手足として忠誠を捧げるだろう。
俺の帝国の前提条件として、このゴーレムたちを無限に生み出すこの工場の維持も必須だ。
その問題を全て片付ける起死回生の一手を見つけなきゃな。
「ミルキー。脱出方法を考えてくれ。アンナとチャールズを連れて行ってくれ」
「解ったよ」
「スーザンとバネッサは冒険者と協力して、食事を用意してくれ。腹が減ってちゃいい考えは浮かばないからな」
意外にまともな指示を出すギースだった。
この辺りの微妙なバランスの取り方が、仲間に見捨てられる事無くギースの豪運を引き寄せているのだろうか?
「残りのメンバーは、俺と一緒にこの部屋の中を探索だ。何か気になる物を見つけても手を触れるなよ。 必ず俺に報告しろ」
「「「了解しました。皇帝陛下!」」」
そう返事を返されたギースはもう、世界を手に入れた気分になっていた。
探索を始めたゴーレム工場の中で、集中管理室のような場所があるのを発見したのは、ウエールズだった。
「ギース陛下。この場所で生産状況の管理などを行うようですが、操作方法が解りませんね」
「誰か魔導具に詳しい者はいないのか?」
「一般論程度でしたら、解りますが……」
「それでいい。言って見ろ」
「殆どの魔導具は、魔法陣が刻まれていますので、そこに魔力を流して発動します。大規模な魔導具にはコアクリスタルが装着してあり、そこに同じように魔力を流す事で稼働させると聞いた事があります」
「そうか、この規模なら間違いなくどこかにコアクリスタルがある筈だ。それを探し出そう」
中々発見出来なかったが三日後には、この集中管理室の良く解らないパネル類を覆うカバーを剝がした中から、コアクリスタルらしき物を発見した。
ここで製造中のゴーレムは、まだ稼働前の様で襲って来なかった事は幸いであった。
「どうやら、これのようだな。これに触れたらいいのか?」
そう言った時に、スーザンが「お食事の用意が整いました」と声を掛けて来た。
「ここまでくれば後一息だ。先にみんなで飯を食ってから、みんなが見てる中で、俺がここを支配する瞬間を見せてやろう」
出口の探索を続けるミルキー達も一度呼びよせて、食事を共に取る事にした。
「凄いね。もう手掛かりを見つけちゃったんだ。流石だねギース。後は出口だけど、これも大体の見当はついたんだけどね」
「本当かミルキー? それなら食事が終わったら、ここを支配してさっさと脱出しよう」
そう言って、みんなで食事を始めた。
「みんな、もうこの世界を俺が統一するのは決まった様なもんだから、前祝で量は少ないが、俺が持って来ていた酒を振舞おう」
俺は最高に気分が良かったので、持ち込んでいた酒も全員に分け与えて、これからの明るい未来を祝った。
「でもさ、ギース。ドラゴンブレス帝国を名乗っても最初に支配する国はどうするの?」
「そうだな。一応王国は世話にもなったし、他の国を武力で支配して、友好的に接する判断を王国がするなら、残してやっても良いかもな」
「そうなんだ。じゃぁ最初は?」
「ここからも近くて、8万もの兵を失った帝国を落とす。一応人口も大陸最大の国だし、最初にオルドラ帝国を落とせば、世界征服も簡単だろうからな」
「凄いけど…… オルドラ帝国には1億の民と50万とも言われる兵が居るけど大丈夫なの?」
「その辺りは任せろよ。俺に策がある」
「へー。でもギースに付いて行くって決めたんだから、信じるよ」
ミルキーとそんな話をしていた時だった。
「ギース・フォン・ドラゴンブレス子爵。残念ですが貴方を王国への反逆罪で告発しなければなりません」
「なっ…… カレン。どういう事だ」
「私達は、元々王国の近衛騎士です。Sランクダンジョンを踏破しそうなギース子爵のクランに潜入調査で訪れていました」
「なんだと……」
「今までの流れの中で、あくまでも王国貴族として振舞っている間は、協力もしましたし、応援もしておりました。しかし王国を裏切る判断を成された以上は見逃すわけには行きません。シーラ。今のうちにこのゴーレム製造工場のクリスタルに触れて、支配権を奪いなさい。私はギース子爵をいえ…… 謀反人ギースを足止めします」
そう言われたシーラは既にコアクリスタルの前に立っていた。
「シーラ。お前もか」
「ギースが姫騎士なんかに鼻の下伸ばすからだよ」
「ミルキー済まん……」
次の瞬間、シーラがコアクリスタルに触れた。
「こ、これは…… なる程。これでこの製造工場は王国が手に入れたと同じね。残念ですがギース子爵とは、ここでお別れです……」
しかし様子が変だった……
コアクリスタルに触れたシーラの姿は、どんどんその魔力を吸い取られて行ったのか、美しかった姫騎士の姿が老婆の様に成っていた……
そしてそのままやせ衰えて息絶えた。
その姿を呆然と見ていたカレンを、クノイチのアンナが後ろから音もなく近寄り、その首筋に
「駄目よカレン? 私はギース皇帝の夢物語に魅力感じたんだから、邪魔しないで!」
他のメンバーは今の間の出来事に全く頭がついて行かず立ち尽くしていた。
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