第51話 ドラゴンブレス⑨

「いいかお前たちは、この遺跡の攻略を成功すれば、王都へと連れて行き世界最強クラン『ドラゴンブレス』が責任を持って面倒を見る。その為に適性を見させてもらう大切な機会が今である事を、しっかりと心に刻み頑張ってくれ」


「「「はい」」」


 古代遺跡の入口を前にして、ギースが激励をしている。

 ドラゴンブレスのメンバー以外は、はっきり言って素人の集まりだ。

 なんの役にも立たないかもしれないが、ギースは冒険者に取って一番大事な事は運の良さだと思ってる。


 この中で自分達と共に生き残れるだけの幸運を持っている様なメンバーでなければ、この先、王都に行っても冒険者として成功する事など無いだろうと。


 その様子を見る、シュタットガルド達三人は眉をひそめて眺めていた。


「おい。爺さん。あの馬鹿は集めた若い奴らを使いつぶすつもりなのか?」

「解らんな。何か手段があるのか…… それとも何も考えて無いのか」


「僕は、何も考えて無いと思うよ」

「いいのか? このまま行かせて」


「冒険者は自己責任じゃ。生きるも死ぬも自分の行動一つ。お前らもそうやって今まで生き延びて来たのじゃろ?」

「確かにそうだけどさ。最初からこんな無謀な探索に駆り出される様な事は無かったよ?」


「口は出さぬ約束じゃ……」



「いいか! 最初はミルキーの班が5人で中に入る。ミルキー達が中に入ればすぐに明かりの確保を行うので、中が明るくなったのを確認したら、20人ずつで突入して行ってくれ。一番危険なしんがりは俺が務めるから安心しろ」


 しんがりが危険なのは撤退戦だろ? と思ってもこの場でそれを口にする事が出来る者は居ない。


「間に合わなかったか……」

「ん? レオネア。何か仕組んだのか?」


「メーガンがクレメンスに居たみたいだから、あそこからなら馬車を飛ばせば一晩でここまで到着するからね」

「メーガン? ここに来たからってなにも出来ない事は変わらないだろ?」


「メーガンはドラゴンブレスの元メンバーと前の日まで一緒に居たらしくて、あのメーガンがそいつを、べた褒めだったから何か違和感を感じたんだよ」

「メーガンが認める程の人物が『ドラゴンブレス』の元メンバーなのか?」


「あ、突入を始めたみたいだね」


 ミルキーの班の斥候の男が先頭に立ち、古代遺跡に侵入を始めた。

 それから3分程の時間を置いて、次々と集められた若者たちが入って行く。

 そして最後にやたら煌びやかな装備を身につけた5人が突入して行った。



 ◇◆◇◆ 



(ミルキー)


 遺跡に潜入すると、そこはあり得ないほどに真っ暗な空間だった。

 今までに幾度となく攻略して来たダンジョンでは、薄暗いという状況は合っても、真っ暗と言う事などは無かった。


 ミルキーの班は、剣士のブライン、斥候のミカエル、クレリックのチャールズ、サポートのバネッサと言うメンバーだ。


 見た目重視で編成しているギースのパーティーより、戦力は上だとミルキーは思っている。

 

「バネッサ。明かりの魔導具をあるだけだしなさい」

「はい。ミルキーさん」


「ミカエルはどこ?」


 その質問には返事が無かった。

 ミカエルは自身の能力で、暗視が使えるのできっとそのまま先行して状況を確認しているのであろう。


 明かりの魔導具を取り出して、稼働させたが、精々5m程度先までしか見えない。


「魔導具は何個あるの?」

「10個あります」


「そう、後続が入って来たら、ここで渡して、そいつらには明かり専任で私達を囲む感じで進ませるしか無いね」

「解りました」


 すぐに次のグループが入って来て、バネッサが魔導具を起動して渡していく。


 すべての魔導具を稼働させて、漸く行動範囲の視界が取れる程度になった。


「明かりを持ったメンバーは、お互いの光源が届くギリギリの範囲で距離を取って、行動するようにね。何かあっても戦闘をする必要は無いから、光源の確保にだけ気を使って頂戴」

「はい」


 それから10分も立たないうちに、ギース達の班も入って来てギースの班のサポートメンバーのスーザンに明かりの魔導具を出すように伝えた。


「明かりの魔導具ですか? そんなの用意してないですよ?」

「はぁっ? あなた達は魔導具も用意せずに遺跡を探索する気なの?」


「だって…… シーラの魔法で問題無いですから! シーラお願い」

「解ったわ」


 シーラと呼ばれた、光魔法使いで、やたら乳のでかい女が『ルミナス』と唱えると、直径50㎝程の光の球が天井のある5m程の高さに飛んでいき、光り輝く。


「ね! 必要ないでしょ」

「あ、そうだね……」


 だが次の瞬間、シーラの光球によって照らし出された、光景を目にしたこのグループが絶句した。


 既に包囲された状態で、何体いるのか数えきれないほどの。真っ黒なゴーレムが槍を構えて取り囲んでいた。


 出口方向には特に多くのゴーレムが、音もなく回り込んでいて、出る事は不可能に近い。


 そして…… 先に進んでいた筈のミカエルの姿があった。

 10体程のゴーレムの漆黒の槍に身体を貫かれ、高く掲げられた状態で……


 ゴーレムたちがゆっくりと、包囲の輪を狭めて来る。


 その状況を目にした村人たちは、一瞬でパニック状態に陥り、唯一ゴーレムの姿が無かった方向へと、一斉に駆け出した。


 まるで誘導されるかのように……


 ドラゴンブレスの10人いや…… 残り9人はいきなり走り出した村人たちに巻き込まれ、その場に尻もちを付いたり、更に踏みつけられたりで一瞬で、煌びやかな装備も泥まみれになる。


「ギース。立て直して!」


 私の叫びはきっと【勇者】ギースなら聞き届けてくれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る